紅茶の味噌煮込み

オックスフォード留学記

英米政治学Ph.D出願の記録③:お金の話(後編ー奨学金の獲得)

前回の記事はこちら

penguinist-efendi.hatenablog.com

 

前回に引き続き今回も奨学金に関する話であるが、今回は具体的に国内奨学金の獲得について書いていきたいと思う。

さて、前回のポストで奨学金がイギリス、アメリカどちらのPh.Dに出願する場合にも重要であることは明らかになったと思うのだが、具体的にはどのような奨学金があって、どれに出すべきで、選考はどのように進むのか、などについてはなかなか経験者でないと分からない点も多い。ここではそうした点について説明していきたい。

国内の財団や公的機関から貰える奨学金にはどのようなものがあるのだろうか。学部生の交換留学の場合、トビタテや業務スーパーといった奨学金に応募する人が多いと思うが、こうした奨学金は交換留学限定であったり額があまり多くないため、博士課程の大学院生には向かない。大学院生対象の奨学金に出すのが良いだろう。

包括的なリストは、下記の日本学生支援機構(JASSO)のウェブサイトが分かりやすい。

ryugaku.jasso.go.jp

出身地限定の地方公共団体のものなどを含めると、奨学金の数は膨大になるのだが、実際留学を支えられる金額を支給してくれ、かつ自分の分野の院生を支援してくれる奨学金となると、実はかなり限られてくるのが実情だ。

特に、自然科学系に比べて社会科学系は応募できる奨学金の数が少なく、また条件も比較的恵まれないものが多い船井情報科学財団中島記念財団といった条件の良い奨学金が、自然科学+経済学/経営学にしか募集をかけていないためである。(何かと経済学は恵まれているのだ。)以下の順位付けも、社会科学と言っているが、経済学・経営学の人には当てはまらない。船井や中島記念に出した方が条件が良いからである。

また、応募方法には個人応募と大学を通じた応募のものがあり、後者の場合、自分の所属大学が募集対象になっていなければそもそも応募できない場合が多い。となると結局、有力大学にいる自然科学系の人が一番奨学金を得やすく、あまり有力ではない大学にいる人文・社会科学系の人が一番奨学金に困るということになるだろう。残念だが、一院生にはこの状況はどうしようもない。将来の変化を願いつつ、粛々と獲得を目指すしかないのである。

  • 社会科学系大学院留学に有用な奨学金

というわけで、上記のウェブサイト等を使って私がリストアップした、社会科学系の大学院に留学する人が応募を考えるべき奨学金を以下の表に挙げる。恐らく、私(政治学専攻、日本国籍、応募時東京大学在学)が利用可能な「めぼしい」奨学金は網羅できていると思うが(東大在学・卒業生だけが応募できる米国伊藤財団FUTI奨学金を除く)、前述のように経済学/経営学専攻ならさらに選択肢は広がるし、女性ならCWAJなどもある。 

表の2列目は学内選考を経て財団に推薦されそこでまた選考を受けるという「学内」タイプか、直接財団に書類を送って選考を受ける「個人」タイプかを表したもの、3列目と4列目は私自身が応募したか否かと応募した場合はその結果、5列目の「備考」は受かった場合はその後採用したか辞退したか、落ちた場合はどの段階で落ちたかを記している。最後の2列は、アメリカとイギリスのどちらの留学に向いているかを◎◯△✕の4段階で示したものである。これについては後で詳しく説明する。

実施団体 応募方法 応募 結果 備考 アメリカ イギリス
経団連国際教育交流財団 学内 採用
KDDI財団 学内 採用
フルブライト奨学金 個人 辞退
平和中島財団 個人 書類
村田海外留学奨学会 個人 最終
吉田育英会 学内 学内
日本学生支援機構 個人 -  
伊藤国際教育交流財団 個人 -  
二十一世紀文化学術財団 個人 -  
本庄国際奨学財団 個人 -  
ロータリー財団 個人 -  
  • 私自身の結果について 

私は経団連KDDI・吉田育英会に学内選考で出し、吉田は学内で不採用となり、経団連KDDIは採用された。またアメリカ留学用にフルブライトにも申請し、採用された。この他に、平和中島財団と村田海外留学奨学会に個人応募したが、 平和中島は書類で、村田は最終面接で不採用となった。

多少あやふやだが、時系列で言うと、フルブライトが最初に書類の締切があり、7-8月に村田・吉田・経団連KDDIが締切、10月に平和中島が締切で、面接はフルブライト・村田・経団連が概ね10-11月、KDDIは面接はなく、吉田と平和中島は面接までいっていないので分からない。

結果が出たのは村田が一番早く、これが待遇上大本命であったので、最終面接で落とされたと分かった時は「自分はこのまますべてに落ち続けるのではないか」と数日間絶望的な気分になった。しかし、その後確かオックスフォードとLSEの先生に会いにイギリスに行って帰国したら、フルブライトの封筒が届いていて、部屋まで待ちきれずに郵便受けで開封して、採用されたと分かった時には思わずマンションの共用スペースで声を上げてしまったのを覚えている。結局辞退することにはなったし、待遇の面でも色々と改善の余地のある奨学金ではあると思うが、やはり「フルブライトに受かった」ということは、非常に光栄で自信になることではあるのだ。その後、経団連は一旦補欠採用となった後繰り上げ合格となり、KDDI財団にも採用された。それらの結果が出た後に平和中島から不採用の手紙が届いたが、正直これについては全くダメージはなかった。変な話だが、大学院出願プロセスの中で一番落ち込んだのは村田に落ちたとき、一番嬉しかったのはフルブライトに受かったときかもしれない。

なお、学生支援機構(JASSO)に出さなかったのは、書類作成が非常に面倒だったのと生活費の支給額が少ないため、伊藤国際に出さなかったのは、書類作成が異常に面倒だったのと最初修士課程に留学する人しかダメだと思っていた(実際は修士/博士一貫課程の最初の2年間にも使える)ため、二十一世紀に出さなかったのはその前に奨学金が2つ決まっていたため、本庄に出さなかったのは同じく時期が遅かったのと支給額が少なかったためである。ロータリーについてはよく仕組みが分からなかった。

  • 面接等の情報について 

これについては書いて良いのか怪しいので、もし質問があれば個人的に連絡頂ければと思います。といっても大した情報はなく、また記憶はどんどん失われていくのでどこまで答えられるかはわかりません。私が経験した面接は、村田(1次・最終)、経団連(1回)、フルブライト(1回)です。

さて、どの奨学金に出すべきか、という話だが、どれが条件が良いのか、というのは場合による。というのも応募にあたっては、①授業料が別枠かそれとも一括で何万円という形か、②併給が可能か不可か、③期間の延長は可能か、④採用人数は多いか少ないか、⑤出願にかかる時間的コストはどれくらいか、といった点を考慮しなければならないからだ。

しかし、まず言えるのは、どのような場合であっても、恐らく村田海外留学奨学会に採用されればそれが一番良い。村田は支給額を公開していないが、聞くところによると授業料や渡航費は実費で、生活費や書籍代なども手厚いらしい(ただ正確な額が分からないので、授業料免除の場合にKDDI経団連とどちらが多いのかはよくわからない)。その分競争はかなり激しく、毎年2人程度しか採用されない上、在外研究に行く准教授や助教といった身分の人とも競争しなければならない。しかしダメ元でもチャレンジしてみる価値はあると思う。

逆に、一般常識とは逆だと思うが、フルブライト奨学金Ph.D出願者にはおすすめしない。(そもそもイギリスに留学したい人は対象外なので応募できないが。)理由は幾つかあり、まず留学目的終了後にビザの関係で2年間の自国滞在義務が発生するため、博士号取得後すぐにアメリカで就職するのが難しくなること(ポスドクはできる、また受給後にフルブライト奨学生の身分を打ち切って一時帰国等で2年間を少しずつ消費することは可能)、2年目の支給額が大幅に減ること、そしてそもそも1年目の支給額も他と比べて多いというわけではないこと(ただし図書費などの雑費は充実している)などがある。プレステージがあるのと授業料が(上限はあるが)実費で支給されることを考えると、どのみち1・2年で帰ってくる、高額の授業料を請求される専門職大学院などに行く人にもっとも向いている奨学金だと思われ、実際採用者のオリエンテーションで会った面々にもそういう人が多かった。自分もお世話になっている先生方にフルブライト受給者が複数おり、フルブライトのネットワークについて教えて頂いたりしたのだが、結局現実的にはPh.D出願者には向かないと判断した。フルブライトに付属する"名誉"は無視できないところもあるが、「記念受験」するには書類作成が大変過ぎる。

次に、まずアメリカに向いている奨学金から挙げていこう。前回の記事で述べたように、アメリカのPh.Dの場合、合格者には学費免除+生活費支給のパッケージが与えられる場合が多いので、授業料が別枠で支給されるよりも、一括支給で額が多い奨学金が望ましい。となると、経団連KDDIが有力である。経団連は一括で年350万円×2年、KDDIは月20万円×2年プラス一時金350万円で、この一時金は何に充てても良い。ただ2017年からこの一時金の仕組みが出来たようなので、永続的なものかどうかは分からない。さらに、吉田育英会も、月20万×2年(さらに1年延長可)に加えて、授業料分の2年間250万円を授業料免除の場合は生活費に回せるので、かなりの支給額になる。なのでこの3つを「◎」としている。

残りの平和中島・JASSO・伊藤・二十一世紀・本庄はいずれも(恐らく)授業料免除の場合は生活費(と旅費)の支給だけだと思われるので、純粋にその支給額によって優劣を付けられる。この中だと伊藤が2000米ドルなので、為替レートにもよるが最大、平和中島と本庄は20万円(本庄は支給期間によって額が変わる)なので次。これらを「◯」にしている。JASSOと二十一世紀は15万程度なので「△」。

イギリスの場合、この序列は大きく変化する。授業料を払わされることを考えると、伊藤と二十一世紀の授業料実費とJASSOの250万はありがたい(なので「◎」)。吉田は2年で250万なのでこれらと比べると少し落ちるが3年目延長の制度は強い。アメリカに強い経団連KDDIは、授業料分を支給額で賄わなければならなくなると、途端に弱くなるのだ。よって以上3つは「◯」になる。生活費しか出ない平和中島と本庄は、「△」評価になるだろう。

なお、併給はほとんどの奨学金が不可であるが、KDDI財団は可能である。

  • まとめ 

①社会科学系大学院留学にとって最強の奨学金は(たぶん)村田海外留学奨学会
フルブライトPh.Dよりも修士専門職大学院向き
③授業料免除の場合はKDDI経団連・吉田→伊藤・平和中島・本庄→JASSO・二十一世紀
④授業料非免除の場合は伊藤・二十一世紀→吉田・KDDI経団連→平和中島・本庄