紅茶の味噌煮込み

東京駆け出し教員日記

英米政治学Ph.D出願の記録④:スコアの話(TOEFL・GRE・GPA)

前回の記事はこちら

penguinist-efendi.hatenablog.com

前の2回は、大学院留学に先立つものとしてのおカネについて説明した。今回は、もう1つの「先立つもの」としてのスコアの話をしていきたいと思う。

大学院留学出願において、提出する数量化されたスコアには3つある。TOEFLGRE、そしてGPAである。TOEFLは言わずと知れた英語能力試験であり、GREも英語の試験といえば英語の試験だが、英語そのものというより、大学院で英語で研究を行っていく能力があるかを見るための試験である。GPAは、学部(プラス院に行った場合はその分も)の成績を1-4のスケールに換算した平均点のこと。

  • GPAについて

このうち、GPAについては、留学しようと思い立った時には既に単位を取り終えていたりして今更上げることができない場合も多い。アドバイスとしても、「成績は後々大事になるので、サボらずにできるだけ良い成績を取って下さい」としか言いようがない。具体的に出願のプロセスの中でGPAをどこで問われるのかというと、各大学の出願ウェブサイト(英米の大学院の出願は基本的にすべてオンラインで行われる)に、GPAを入力してtranscript(成績証明書)をアップロードする箇所がある。しかし、そもそもGPAシステムを採用していない大学の場合、GPA値の入力は必須ではない場合が多い。実際には各大学がtranscriptを元に、独自の方法で換算しているのではないかと思われる。大学によってA(優)の割合が異なっていたりすることは大学側も承知だと思うので、それほど心配しすぎる必要はないと思うが、実際どのように評価されているのかは分からない。GPAは高いに越したことはないと思うが、何点以上ないといけないという基準があるわけでもないだろう。

次にTOEFLについてだが、英語能力は博士課程では「当然の前提」とされるので、ここは容赦されないと思う。大学としても、少ない枠を割いて、(特にアメリカの場合は)コストもかけて受け入れるわけだから、途中で退学されては困る。英語ができない学生は適応できず辞めてしまうことが多いため、特に留学生はリスクが高いと考えられていると聞く。そのため、自分が英語能力に全く問題がないということを示すことが必要なのである。また、人文社会科学系は自然科学と違って、数学ができればある程度何とかなるという類のものではないから、特に英語についてはシビアだと考えた方が良いだろう。

では具体的に何点が必要かと言われると、決まったものがあるわけではないが、「110点」が1つの目安ではないだろうか。100点では学部の交換留学には十分であっても、英語で研究ができるかと言われれば難しい。自分は一応115点のスコアを持ってはいるが、英語で論文を書くときなど、自分の表現のバリエーションの無さに絶望しながら書いているし、冠詞の使い方は未だによく間違えるし、一日中英語を話していると夜には疲れてきて運用能力が落ちる。その程度なのである。110点というのは、日本生まれ日本育ちの人でも、交換留学を経験してTOEFL用の対策をしばらく頑張るなどすれば、十分達成可能なレベルであると思う。逆にそれが達成されていないと、少し周りに差を付けられてしまうだろう*1

TOEFLの勉強法などは、正直何が良い方法なのか分からないし、そういうハウツー本の類は世の中に溢れていると思うので、ここでは詳しくは書かない。そもそも受験英語をしっかりやっていれば、ReadingとListeningはその延長で対応できるはずだし、SpeakingとWritingは、ひたすら練習あるのみ、という感じがする。

全く個人的な話だが(ブログは個人的なものなので断る必要もないのだが…)私は大学入学時には全然英語が話せなかった。英語で面接をする学生団体の選考(!)に行って全然英語ができなくて恥をかいたり、一緒にTOEFLの勉強会をやっていた友達の前で英語を話すのがとても嫌だったのを覚えている。東大には帰国子女でめちゃくちゃ英語が流暢な人たちが一定数いて、そういう人を見ていると非常に羨ましかった。それを何とかしようと思って、学部の交換留学に向けて、大学で「言語交換プログラム」みたいなやつを利用して、フィリピン人の院生と何ヶ月か週1くらいで会ってTOEFLのスピーキングの解答を聞いてもらってアドバイスをしてもらったのだが、そこでも全然話せず、だんだんそれに行くのが嫌になったりして、向こうが忙しくなったのもあってやがて自然消滅した。

よく「言語は恥をかいて上手くなるものだ」みたいに言うのだけど、内向的で恥をかくのがとても嫌いな私のようなタイプの人間は、上手くなるためであっても恥をかくのは御免だと考えがちかもしれない。私は、個人的には、そういう人は別に無理に恥をかきに行くことはないと思う。だから放棄すればいいというのではない。友達の前で恥をかくのが嫌なら、誰も知らないところで新しく人を見つけて見てもらえばいい。集団授業の英会話教室が嫌なら、個人授業にすればいい。誰にも見られたくないなら、自分の解答を録音して自分で採点すればいい。それによって「恥をかきながら」やるよりも時間がかかるかもしれないが、そんなことは恥をかくのが嫌な人間にとってはどうでもいい。そういうタイプの人間は、往々にして見えないところでの余分な努力には耐性があったりするものだ。それである程度自信がついてきたら、人前に出ればいい。恥をかくのはどうでもいいけど単に努力するのがめんどくさいという人は・・・さすがに知らない!

一応TOEFLの参考書を2つだけ。上は日本語で書かれた、スピーキングの演習問題が沢山載っている本。これを解答を見ながら繰り返しやるだけでも、段々慣れてくるはずだ。下は英語で書かれたかなり分厚い本。全セクション載っており、付属のCDだかDVDだかを使って、本番のテストとほとんど同じようにパソコンを使って解くことができる模擬テストがある。最初は日本語のテキストで全体像を把握するのも有用だが、最終的には英語で書かれた教科書で勉強するほうが良いように思う。

 

TOEFL TEST対策iBTスピーキング

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Barron's TOEFL iBT with CD-ROM and MP3 audio CDs

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  •  GREについて

TOEFLをクリアしたら、次に待ち受けているのがGRE(Graduate Record Examination)である*2。イギリスの場合は必要ないが、アメリカやカナダの大学院を受ける場合にはこの試験を受け、3つのセクションについてある程度のスコアを確保する必要がある。3つのセクションとは、やたらと難しい単語や難しい文章の読解が問われる"Verbal Reasoning"、数学というより算数レベルの簡単な問題(ただし引っ掛け問題がクセモノ)が続く"Quantitative Reasoning"、そしてTOEFLより採点基準が大幅に厳しい(と思われる)"Analytical Writing"である。自然科学系の一部の分野では、専門科目(subject test)を要求される場合もあるようだが、人文社会科学系は気にしなくてよい。

この試験、一定以上のスコアを取るには、結構対策が必要である。特にVerbalに出てくる単語は、ネイティブでさえ今まで聞いたことがないような単語も数多く、対策なしではほとんど解けないだろう。Quantitativeは、問題自体は非常に簡単だが、基本的な数学用語を英語で覚え直したり、引っ掛け問題に惑わされないようにするのに多少時間がかかる。Analytical Writingは正直一番点数を上げるのが難しく感じた。TOEFLのように内容がきっちりしていれば点が来る、という単純なものではなく、Verbalで使ったような難しい表現を用いて書くことが高得点への秘訣なのではないかと思う(自分はそこまでいかなかった)。

さて、何点取れば良いのかという話だが、分からない。最低基準を明記している大学は見たことがないし、合格者の平均点などを公開している大学もあまりない。スタンフォード大学政治学部のFAQには、

Do you have a minimum GRE score or GPA Requirement?
- No. However, admission to our program is highly competitive. Admitted students typically have very high GRE scores (approximately 166+ verbal, 163+ quantitative, and a score of 5.5 in the Analytical section). Admitted students typically have a GPA of at least 3.8 in their previous studies.

と書いてあるが、Quantitativeは達成できるにせよ、Verbalで166点、Writingで5.5、特に後者は非ネイティブにはほぼ不可能な数字である。このレベルの点数が取れないと合格しない、ということはありえない。

一応私が目標としたら良いのではないかと個人的に思っているスコアは、Verbal160点、Quantitative170点、Writing4.5点である。目標に届かなくても実際に出願に使って最低限問題ないかなと思っているスコアは、Verbal155点、Quantitative165点、Writing4.0点といったところ。別に明確な根拠があるわけではないので注意していただきたいが、このあたりが現実的ではないかと思う。私はといえば、VとQは目標達成できたが、Wは結局2回受けても4.0にしかならなかった。周りを見渡してみると、4.5が一度取れたという人もちらほらいるが、4.0が標準的なスコアだったように思う。3.5で出願してバークレープリンストンに合格した人も知っているし、少々低いからといって気にすることはない。後でも述べるが、結局出願にかけられる時間は有限なので、最低限のスコアを取ったら他の書類を優先し、その後にもしまだ余力があればスコアの向上を目指せばいいのだ。

ではどう勉強すべきかというと、たぶんGREについては、単語帳+問題演習ということになるだろう。TOEFLの延長である程度対応できるが、それ以上の部分は難しい単語を覚え、実際の問題形式に慣れていくしかない。GREの単語は研究で役に立たないと言う人もいるし、実際その後見ない単語もいっぱいあるが、勉強途中に論文を読んでいて「あ、これ単語帳に出てきた」と気づくこともしばしばあった。語彙力があって困ることはないので、諦めて暗記に徹するのが一番だと思う。ただ、時間を過剰にかけすぎないようにしたい。

ここでも一応参考書を。最初の本は日本語で試験の形式等をさらっと把握するため。別に買わずとも立ち読みすれば十分かもしれない。2つ目は私が使っていた単語帳。別にこれである必然性はないが、出題率に基づいてリストしてあるGRE専門の単語帳を使用した方が効率的。3つ目は問題演習に使用した。

新テスト対応版 大学院留学GREテスト 学習法と解法テクニック

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Barron's Essential Words for the GRE

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  • スコアはどれだけ重要か 

GPA、TOEFLGREといったスコアをどこまで上げるか、どれだけコストをかけるかというのは悩ましい問題だ。一方では、これらは唯一明確に数量化されている出願書類であり、自分次第でどんどん上げられる。他方で、ある程度以上上げるにはかなりの時間やお金や手間がかかり、TOEFLのスコアが1点上がったからと言って不合格が合格になることはない。

審査においてこれらのスコアがどれだけ考慮されているのかという問題だが、これは実際入試のcommitteeに入ったことがある人でないと分からないので、私のような院生には見当がつかない。「足切り」として使われているという意見を聞くことも多いが、どこが足切りラインなのか分からない以上、足切りに使われるという情報を知ってもあまり意味はない。

ただ言えることは、「高くて問題になることはない」ということ、そして「低くても合格する時には問題なく合格する」ということである。後のポストで述べることになると思うが、出願書類で一番パワーがあるのは推薦状とSOP、特に前者だと思っているので、これらのスコアが大して重要だとは思わない。TOEFLGREのスコアが低くてもいわゆる「トップスクール」に合格した人も知っているし、自分も含め、スコアが高くてもアメリカの「トップ10」の大学には受からなかった人もいる(後者の方が多いようには思うが)。

なので、他の要素に自信がある場合、極端に言えばスコアに手を抜いても受かる場合は受かるだろうし、逆にスコアが高くても合格する保証はまったくない。スコアを上げるのは、「ここで減点されないように」というためなので、別にここで減点されても他で挽回できる、というのならほどほどの点数で良いのである。でも、繰り返しになるが、高い点数で損になることはない。それにかけるコストと比較検討した上で、現実的な目標を設定することがカギになるだろう。

なお、他分野の人でTOEFL110点、GRE160/170/4.5という目標を見て「高すぎる!そんなにいらない!」と思った方もいるだろうが、政治学社会学に関しては多分そんなに外していないと思う。以前米国大学院学生会の留学説明会に行った時、登壇者が「GREのVerbalは150点行けばすごい」と仰っていて、他の登壇者もそれに同意していたのを見て驚愕した覚えがあるが、同会は自然科学系の人が多く、社会科学でも経済学の人がほとんどなので、政治学社会学とは状況が違うと思われる。

何とも歯切れの悪い結論になってしまったが、今回はここまでにします。 

*1:とはいっても、大学院入試は総合での勝負なので、英語が多少できなくても、統計にめちゃくちゃ強いとか、世界的に有名な先生の良い推薦状があるとか、研究関心が先生と非常にフィットしているとかいうことがあれば、簡単に逆転できる程度のものであるので、万一達成できなくても必要以上に心配することはない。切り替えて他の部分で強みを出せば良い話だと思う。

*2:ビジネススクールなどではGMATという別のテストを受ける。