紅茶の味噌煮込み

オックスフォード留学記

英米政治学Ph.D出願の記録⑥:推薦状

前回の記事はこちら

penguinist-efendi.hatenablog.com

今回からはいよいよ、出願に必要な書類に関する具体的な話に入っていく。前回までの内容は前提条件として、今回からの記事で扱う部分が最終的に合否を決定付けることになるだろう。

なお、修士課程での留学についてはこの記事の内容はほとんど関係がないと考えている。修士課程は人数が多く、また大学にとってはお金を払う相手ではなく払ってくれる相手であるので、Ph.Dとは全く事情が異なると思われるからである。

  • 推薦状の重要性ーアメリカの場合

アメリカの場合、恐らく、研究関心などを記したSOPと並んで一番重要なものが、推薦状だと思う。これが弱ければいわゆるトップ10に絶対受からない、とまでは言わないが、限りなく可能性が低くなることは確かなはずである。逆に、他の要素が弱くても、世界的に有名な先生に強い推薦状を書いてもらえれば他の全てを挽回できる可能性があると思う。といっても、そのような先生に推薦状を書いてもらえる人は大抵の場合他の要素も少なくとも周りに引けを取らないレベルにあるだろうから、実際には一発逆転、みたいな人はほとんどいないと思われるが。

推薦状がいかに重要か、という点については、政治学ではなく経済学の話ではあるが、以下のブログが参考になる。思うに、Ph.Dは枠が少ないし、大学側が各人に大金を出さなければならないから、やはりリスクの少ない人を選ぶことが最適な選択になり、そうすると、知っている人や評価されている人が薦めている学生を取ろう、となるのは自然である。だからスコアのようにインフレしていてあまり違いが見えないようなものより、実際知っている人の口コミが重要になるのだ。

blog.livedoor.jp

  • 推薦状の重要性ーイギリスの場合

イギリスの場合、アメリカと比べてそれほど推薦状が重要だとは思わない。というのは、推薦状の重要な役割である「人物保証」(その人の優秀さの保証)が、推薦状以外のものによって補われている、いやむしろそちらの方が重視されているためである。

興味のある教員と事前にコンタクトを取ることが推奨されておらず、メールしても返事すら来ないことが一般的なアメリカ(の社会科学系)と違って、イギリスの場合は(少なくとも政治学では)Ph.Dに出願する人は、事前に指導教員候補と連絡を取り、進学の希望を伝えた上で、できれば実際に会いに行って話をすることが一般的である。私もダメ元で送ってみて驚いたのだが、全く繋いでくれる人がいなくても、きちんとCVや研究計画書を添えて丁寧にメールを送れば、イギリスの先生はメールも返してくれる。教員は実際に話すことでこの学生と上手くやっていけそうか、という点を見極めることがある程度できるし、その過程で結構長い研究計画書を送ったりもするので、研究内容についてもしっかり把握することができる。もちろん良い推薦状があればプラスにはなるだろうが、それだけに依拠して判断しなくても、自分の目で確かめられるわけである。入試のプロセス自体も、アメリカと比べれば個々の指導教員がその学生を受け入れるつもりがあるか、という点により重点がある(その点日本とかなり似ている)と思われるので、他の教員に対して指導教員が採用を正当化できる程度のスコアや書類が揃っていれば、推薦状獲得にそこまで血眼にならなくても大丈夫なのではないかと思う。

  • 推薦状獲得の難しさ

ここからはアメリカ向けに強い推薦状を獲得したい、という前提のもとで進めていく。まず言いたいのは、推薦状が非常に重要、という話は、はっきり言ってこの上なく夢のない話だということである。なぜなら強い推薦状を得られるかどうかは、今自分がどの大学のどのプログラムにいるかに強く影響されるし、国内の先生が国際的に名前を知られているかどうかは分野によって大きく異なるし、アクセス可能な世界的に有名な先生が自分と分野が近いかどうかも運次第だからである。

経済学などは国内にも(東大中心ではあると思うが)何人も、強い推薦状を書ける、誰もが知っているような先生がいるのだと思うし、だからこそ経済学では誰もが知っているアメリカの大学に合格している人が毎年一定数出ているのだろう。自然科学系の分野はもっとこれが進んでいると思うし、何なら「現時点では」別に留学しなくても世界と勝負できるはずだ。

しかし、政治学社会学では、経済学ほど国内の学界は世界(といってもその「世界」はアメリカを意味していることが多いわけだが)とはリンクしておらず、国内に世界中の研究者が名前を知っているような先生は(ほとんど)いないと言ってよい。政治学でも、アメリカの超有名大学でPh.Dを取った先生は50代以上に結構いらっしゃるものの、帰国してからは必ずしもあまり英語では論文を発表していない方も多い*1。その背景には、国内でも英語で論文を書くのが一般的な経済学と違って、政治学社会学では国内では日本語で論文を書く研究者が多数派であることもあるのかもしれない(でも私はそれが必ずしも悪いこととは思っていない)。つまり、国内で有名な先生が、必ずしもアメリカでは認知されていないため、院生に与えられる推薦状が弱くなる、という現象があるのだ。そういう意味では、先人のパフォーマンスが直に後進の進路に影響する。

ただ、政治学でも最近、アメリカで非常に有名なメソドロジーの先生が東大で夏に出張授業を始められたことで、それを受講した院生が同先生の推薦状を得てトップ校に合格する、あるいはその先生の大学に行く、ということが相次いでおり、状況は変わりつつあるのかもしれない。私の場合、アプローチ(研究手法)がどうしても違うので、その時流に乗ることはできず、その時点で推薦状で突出することは諦めた*2。しかし推薦状という要素は他と比べても特別重要で、(もちろん自分自身の頑張りや運次第ではもう少しくらいは上手くいったかもしれないとは思っているが)周りのトップ校合格者と比較して見る限り、自分がアメリカのトップ10には合格しなかった最大の理由は、研究テーマがニッチで「時代遅れ」であることだとは思うが、推薦状という要素も影響しているように思われる。

  • これから応募する場合の戦略

では競争力の高い推薦状を獲得するためにはどうすれば良いのだろうか。そもそも推薦状を書いてくれる先生は推薦できるほど学生のことを知っていなければならないわけで、ある日突然思い立って知らない先生に「推薦状を書いて下さい」と言っても無理に決まっている。つまり、推薦状獲得にはそれなりの準備期間が必要であり、早いうちから戦略的に動くことが必要である。

まずは、国内で自分がアクセスできる範囲にいる先生のうち、誰が強い推薦状を書きうる先生なのかを考えることが先決だ。どのような先生を探せばよいかというと、①アメリカ(の有名校)で学位を取得している、②アメリカで教えていたことがある、③最近も英語の雑誌に論文を積極的に投稿している、④その研究が広く引用されている、という要素をできるだけ沢山満たしている先生である。要は、自分が出願するアメリカの大学の審査委員会の人がその人の推薦状を重んじるであろう先生、ということになる。

で、そうして推薦者候補が見つかったら、今度はその人に推薦状を書いてもらえるほど自分を知ってもらわなければならない。もしその先生が自分の大学にいるなら、授業やゼミを取って積極的に発言してアピールし、授業外でも質問などをし、できるだけ良い成績を収める。学外の人なら、その大学の授業を聴講させてもらって同様の努力をする、あるいは研究会やセミナーといった機会を逃さず、チャンスを見つけて話してみる。リサーチ・アシスタントを募集していないか聞いてみる。もしアメリカから関心のある先生が研究発表などで日本に来るということがある場合、そういったセミナーにも積極的に出て、懇親会などにも残り、積極的に話しかけてみたい。在外研究で日本に来ている場合、日本での研究のアシスタントを求めている場合が多いので、リサーチ・アシスタントとして近しくなれる可能性は意外とある。私自身もこうした経緯で推薦者の1人に出会った(もっともこのケースでは、推薦状確保を目的にRAをしたというわけではないのだが)。

自分も含め、研究で行きていこうなどと思う人は平均的に、(例えば商社に就職する人などと比べれば)人付き合いにあまり積極的ではない人が多いと思うが、研究者の世界も実は非常に人付き合い、人間関係が重要だということに大学院に入ってから気づいた。推薦状ひとつをとっても、普段からアンテナを張って、色んなところに出かけていくのが大事である。といっても、中身の伴わない「人脈モンスター」になっても誰も相手にしてくれないので、自分の研究に支障のない範囲で、ということになる。

しかし、結局いくらアンテナを張っていても、人との出会いには運の要素が強いから、上手く強い推薦状が確保できないことはままあるだろう。だがその時点で合格が無理になる、などということはない。研究内容のマッチ次第では、トップ10(あるいは20)以下の大学は問題なく受け入れてくれるだろうし、イギリスなら目当ての先生と会うことで逆転できる!出願結果で悔しい思いをしても、自分がどうしようもないところの問題だったと割り切って、進学先で研究に注力し、将来自分が後進に強い推薦状を書けるような研究者になろうではないか。

なお、まずアメリカの修士課程のプログラムに進学して、そこで現地の先生と知り合い、推薦状を書いてもらってアメリカの良いプログラムに合格する、という経路を取る人は結構おり、それは有効な戦略であると思う。日本の修士を経由しない場合には日本の学界との関係が薄くなること、経由する場合には余分な時間がかかることと天秤にかけた上で判断したい。

最後は謎の(自分への?)励ましで終わったが、推薦状については以上です。 

  • 追記

推薦状を頼む際、時々「文面を自分で書いて持ってきたらサインしてあげるよ」と言う先生がいるが、国内の奨学金などならまだしも、海外大学院の推薦状は一院生の手に負えるものではないから、書いたところで大したものにはならない。何より推薦状を自分で書かせるようなことを教員はしてはいけないと思うので、こういう人に頼むのはやめた方が賢明だ。

*1:有り体に言えば、こうした先生方が留学した時代には、日本への関心は今よりもっと高かっただろうし、中韓の留学生は少なかったから、競争率は平均すると今よりも低かったと思われる。

*2:といっても自分がアクセスできる範囲で一番良い推薦状を得られたと思うし、最低限ノースウェスタンやブラウンに受かったのは推薦者の先生方によるところが大きいとも思っている。