紅茶の味噌煮込み

東京駆け出し教員日記

英米政治学Ph.D出願の記録⑦:CV / SOP / Writing Sample / Personal Statement / Research Proposal

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今回は、出願に必要な諸々の書類のうち、推薦状以外の、自分で書かなければいけない書類についてまとめて解説する。「前回まで細かく一つ一つ扱っていたくせに今回は雑にまとめてきたな、そろそろ飽きてきたのかなこいつ」と思った方もおられるかもしれないが、鋭い、半分正解である。半分間違いなのは、具体的な書類の書き方について私が(というか多分誰も)「正解」めいたものを持っていないからである。合格したというのは、総合的に適格だと判断されたということであって、個々の書類が上手く書けていたということを必ずしも意味しない。なので、個々の書類を「どう書くべき」というようなことは、私には無責任には言えないのである(という言い訳?)。以下では概説的に、それぞれどんな書類なのかという説明、そして一般的な注意点などを述べていく。

  • CV(Curriculum Vitae:履歴書)

イギリスでは大学のウェブサイトで公開していることはあまり一般的ではないが、アメリカの主要大学では、ウェブサイトの"People"のページの教員リストのところに、個々の教員の業績や経歴などをまとめた、CVと呼ばれる書類がある。出願先選びのために大学ウェブサイトをチェックした人なら、既におなじみだろう。この書類を、自分でも作るのである。形式などは人それぞれ違うが、色んな人のものを見て、かっこいいなと思ったものを真似して作ればいいだろう。注意すべき点としては、学歴や業績などは年度の新しいものから先に書く、というぐらいだろうか。

  • SOP(Statement of Purpose:志望理由書)

アメリカではほぼ100%課され、イギリスでは大学による。例えばオックスフォードでは、独立したSOPというのはなく、研究計画書の中に「入れたければ入れても良い」ということになっている(ということもウェブサイトには書いておらず、私が担当者に質問してそのような回答を得た)。SOPは、特にアメリカに出す場合には時間をかけ、推敲に推敲を重ねて最高の出来のものを出したい。というのも、アメリカの出願においてはこれが推薦状と並んで最も重視されている書類ではないかと思われるためだ。

指導教員と事前に直接会って話すことが一般的なイギリスとは違って、アメリカでは、SOP以外に出願者の研究関心を知る機会がない。ライティング・サンプルはあるが、多分殆ど誰も読んでいないし*1Ph.Dに入ってから徹底的に教育を施すアメリカでは、出願段階で書いた論文など重視していないのではないだろうか。出願先や進学先を決める上で大事だとほとんどの人が言うのが、"fit"(教員の関心と自分のそれとの適合度)だが、それを見極めるために重要な書類が、SOPなのである。

SOPを書く際に気をつけたいことは、SOPは自分の生い立ちを語る場ではないということである。貧困家庭に生まれたとか、大学時代に世界一周して途上国の問題を目の当たりにしたとかいうことは、SOPにおいては必要のない情報であり、2ページ程度のこの書類に入れる余地はない。純粋に研究関心やこれまでに行った研究、受賞歴やTA・RA歴、メソッドや数学の習熟度など直接的に研究と関係のあることのみを簡潔に書きたい。そして、必ず応募先の学部で一緒に研究したい、指導してもらいたい教員2、3人の名前を挙げよう。名前が上がっている先生に自分の書類が回り、その人が自分を取りたいと思ってくれる可能性がある。

なお、SOPを書く際には、出願経験がある人や審査経験のある先生に何度も見てもらい、添削を受けることをおすすめする。私の場合も、推薦者の一人が時間を割いて親身に添削してくださったおかげで、最初のバージョンよりは遥かに文章面でも内容面でも良いものができたように思う。

  • Writing Sample 

自分がこれまでに書いた論文などを20-25ページくらいの分量で出すものである。学部生なら授業で出したレポートや卒論、修士をやった人なら修論をまとめ直したものを出すのが一般的だろう。ただ、修士2年で出願する場合、修論を執筆している時期にライティング・サンプルも準備しないといけないので、結構きついものがある。

どうせそれほど重視されてもいないとは思うが、注意すべき点としては、形式面をきちんとそろえるのがめんどくさいという点だろうか。他の書類にも共通するが、single-spacedなのかdouble-spacedなのかで同じページ数でも書ける分量が変わってくるし、アメリカの場合、使用される紙のサイズはレターサイズといって、日本で使われているA4とは微妙に大きさが違うのと、余白の幅も日本とアメリカでは違うので特に注意が必要である。

  • Personal Statement 

SOPでは生い立ちなどは書かないということを上で述べたが、まさにそういうことを書く場所なのが、Personal Statementである。これが課されているのは一部のアメリカの大学だけなので、普通は書く必要はないが、特にカリフォルニア大学系は課す場合が多いように思う。要は、マイノリティであったり、大学の多様性を高める特殊な経験などがあれば考慮されるということらしいが、ほとんど合否とは関係ないと思う。

  • Research Proposal(研究計画書)

これが課されるのはイギリスの博士課程の場合だけである。イギリスでは、恐らくこれが全ての書類の中で一番大事だろう。というのも、最初の2年間程度で徹底的に院生を教育するアメリカとは違って、イギリスの博士課程では基礎的なスキルを既に身に着けていることを前提に、独立した研究を行うことが求められる。最初の1年間はそれでもある程度授業を履修する場合が多いが、2年目以降は本腰を入れて博士論文の執筆をすることが求められる。修了までにかかる時間も、アメリカの5-6年に対し、3-4年と短い。この短期間で博士論文を執筆しなければいけないようなタイムスケジュールだと、博士課程に入る時点で自分の研究テーマや内容がかなり具体化されていることが必要で、そのために出願時に長めの研究計画書が要求されることになるのだと考えられる。アメリカの博士課程は、自立した研究者になるための教育を受ける場所であるが、イギリスの博士課程は、博士論文を書きに行く場所である。

長さは大学によって異なるのだが、私の進学先(オックスフォード大学政治国際関係学部)の場合、「最低」4000語が要求され、上限はない。もちろん長ければ良いというものではないが、私も、また知り合いの過去の出願者も、8000語程度は書いていたようである。内容については踏み込まないが、先行研究の詳細なレビュー、明確なリサーチ・クエスチョン、検証方法や暫定的な結果など、8000語となると色々と盛り込む必要があり、研究計画書のテーマが修士論文のテーマと関連していないと、短時間で良い研究計画書を書くのは現実的には難しいだろう。

*1:入試のCommitteeに入った経験のある先生によると、最後の最後に絞る際に読むらしい