紅茶の味噌煮込み

東京駆け出し教員日記

英米政治学Ph.D出願の記録⑩:合格後に起きること

前回の記事はこちら

penguinist-efendi.hatenablog.com

前回は出願後、合否が出るまでのプロセスを自分の体験も交えてお話したが、今回は実際合格が出たあとに何が起きるのかを書きたいと思う。

  • アメリカの場合ー教授からの連絡と大学訪問

アメリカの博士課程の場合、まず合格通知にFinancial offerが記載されている。5年間、毎年いくらの生活費がもらえるか、そのうち何年はTAの義務があり、何年はFellowship(TA義務のないお金)なのか、保険はどうなっているのか、といったことが列挙されているので必ず詳細に確認しよう。要するに待遇であり、会社で働くときの労働条件のようなものである。後の記事で述べるように、これが進学先を決定する上でも1つの大きな要素になる。

そういうことを確認しているうちに、合格した大学の、専攻長とかそういう管理職的な地位にある人と、おそらく自分がSOPに名前を書いたうちの一人の先生からメールが届くだろう。前者は多分全員にメールを送っていて、後者は個々の合格者と関心が近い教員が送ることになっているのだろう。後者のメールは、「おめでとう、君の研究関心は面白いしうちのプログラムにぴったりだよ。一度ぜひスカイプで私と話してみないか?」というような具合である。この人と色々な話をしていくことになる。

しかしまあ、大学院に合格したからといって先方からわざわざメールをくれてアポイントを取ろうとしてくれるなんて、日本ではとてもとても考えられないことである。どの大学も合格者には来て欲しいし、合格後のリクルーティングに力を入れなければ誰も来ないという事態になってしまうという、競争の激しさがあるのだろう。ハーバードやスタンフォードでさえも、東大のように「受かったやつはみんな来るだろう」という殿様商売はできない。

まあ、だからアメリカの大学が日本の大学より優れている、というわけでは必ずしもなくて(よりフランクであるということは確かかもしれないが)、文化の違いといったところだろう。それに、アメリカの大学院も、先生の側からコンタクトしてくれる状態が入学後もずっと続くようなお花畑な世界ではない。むしろ、合格から進学決定までの2ヶ月程度の期間は、出願から進学、下手すれば博士号取得までのすべてのプロセスの中で唯一、出願者の方が出願先よりも強い立場にある期間である。合格するまではもちろん落とすことのできる大学の側が強いし、進学してしまえば学位授与機関である大学が院生の生殺与奪の権利を握っている。合格を出してしまって、うちに来てくれるかわからない、という状態のこの2ヶ月だけ、院生が強い立場に立てるのである。これを生かして指導教員候補に色々と質問してみよう。

やはり、スカイプあるいは実際に会って話すと、その人が自分に合いそうかは、(間違っている場合もあるにせよ)何となく分かるものだ。論文を読んで心酔していても、話してみれば何か合いそうにない、ということは往々にしてある。話す際には色々と質問をすると思うが、その際に私がお願いして良かったと思ったのは、その先生が過去に指導していた/現在指導している、院生を紹介してもらうということだ。その人が指導教員として良い人なのか、どんなスタイルなのかといった重要な点は、なかなか本人には聞けないというか、本人では分からない面もあるので、第三者だがしかしその人のことをよく知っている院生は話を聞くのにうってつけの相手である。このように指導教員候補には、必要に応じて人の紹介もお願いしてみよう。快く応じてくれる場合が多いはずだ。

指導教員候補とのコミュニケーションの他にもう1つ大事なことは、大学訪問である。各大学とも、合格者を対象に、2月末~3月にオリエンテーションを開催する。実際に合格者が大学に足を運び、直接担当者から色々な説明を受けるとともに、教授陣や先輩の院生と話をするというイベントである。これは、大学側が滞在費はもちろん、交通費も一部あるいは全部を負担してくれることもあるし、何よりその大学の様子を実際に体感することができる唯一無二の機会であるから、少しでも進学する可能性があるなら、万難を排して絶対に行った方がいい。行った大学と行っていない大学があるとき、行っていない大学の方に進学するというリスク満載の選択をするのはほとんど無理である。

分からないところを教員や大学事務に訪ねつつ、その大学での5年間についてイメージを膨らませたい。

  • イギリスの場合ー便りのないのはよい便り?

イギリスの場合、アメリカのようなフレンドリーでフランクなシステムは存在しない。出願者は出願の段階でもう大学のことを知っているはずだし、指導教員とも面会しているはずである。なので新たにオリエンテーションをやる必要はない、ということなのだろう、おそらく。合格通知以降、進学の意思を伝えるまで、向こうからメールが来ることは基本的にないので、質問があれば大学の担当者にメールするということになるだろう。とはいっても、こちらからメールを送れば、指導教員も「おめでとう」くらいは言ってくれるし、質問にも答えてくれる。単にアメリカほどの積極性は期待できない、という程度のことである。