紅茶の味噌煮込み

東京駆け出し教員日記

オックスフォードカレッジ紀行②:Nuffield College

前回自分のカレッジであるSt. Antony'sを紹介してから実に2ヶ月以上も時が経ってしまったが、今回はNuffield Collegeを紹介したいと思う。このシリーズをあまり更新できていなかったのにはわけがあって、なぜかというと他のカレッジのことは記事にできるほどよく知らないのだ。授業等で行く機会があったり友達がいて招待してくれたりしない限り、他のカレッジの内部に入るのは難しく、外から写真を撮るぐらいしかできない。なので今後もなかなか更新は進まないと思うが、博士号取得までに最低10、できれば20(カレッジは全部で38あるのでこれでもまだ半分)くらいは紹介できれば良いなと思っている(目標が低い)。 

今回ナフィールドを選んだのには理由があって、自分がセント・アントニーズの次に知っているカレッジだからである。というのも、NuffieldはSt. Antony'sと同じく社会科学専攻の院生で構成されるカレッジで、政治学に関連するセミナーや授業が頻繁に開催され、立ち寄る機会が多いので、自然と情報もそれなりに持っていることになる。

ナフィールドは1937年に、自動車産業で身を起こしたWilliam Morris(ナフィールド卿 Lord Nuffield)が寄付した資金を基に、1958年にカレッジとして成立した。これはセント・アントニーズよりも5年早く、ナフィールドは最初の院生限定カレッジだったそうである。地理的には街の中心部から西にある駅に向かう道の途中にあり、新しくできたショッピングモールの近くに位置している。

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出典:http://conference-oxford.com/venues/conference/nuffield-college

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カレッジの建物は間違いなく弊カレッジよりも美しい。

ナフィールドを特徴づけているのは、院生の人数の少なさと、資金の豊かさである。大学が発表している数字によると、ナフィールドに在籍している院生はわずか90人で、セントアントニーズの459人と比べると5分の1に過ぎない。そもそも豊かな資金があることは前提として、少数精鋭であるため、一人当たりの資金は手厚く、ナフィールドに所属する院生は、何らかの形でカレッジからファンディングを受給していると思われる。反面選考は厳しいらしく、知り合いに応募したが落選したという人がちらほらいる。また、実際の数字は分からないが、カレッジからの研究助成も充実していると聞く。カレッジのウェブサイトには、院生一人ひとりのプロフィールまで公開されている。おまけに、食事も美味しいらしく、ランチは毎日無料で、午後にはお茶とお菓子が毎日無料で提供される。アコモデーションもカレッジから助成が出ているため極めて廉価であるらしい。極めつけは、ナフィールドにはセントアントニーズと全く同じコーヒーマシンがあるのだが、ナフィールドではこれは無料で、セントアントニーズではダイニングホールで(有料の)夕食を食べればもらえるコインを使わないと飲めないのである。

そういうわけで、こうした格差はAntonian(セントアントニーズの人の呼び方)のやっかみの種になっており、自分も出願の際に迷ったのだが、結局ナフィールドは希望しなかった。理由は2つあるが、1つは、両カレッジは学問分野はかなり重複しているものの、その特化した分野やアプローチには大きな違いがあるという点である。Nuffieldは政治学においてもどちらかというと経済学的なアプローチを用いる人が多く、計量分析や実験をメインに研究する人が多数派を占めている(もちろん例外はあり)。北米の政治学者にもかなり名前が知られており、分野的には、先進国の比較政治などの分野に強い印象がある。一方St. Antony'sは歴史的なアプローチを用いる人の割合が高く、国際関係や地域研究が中心的である(同上)。歴史的なアプローチを中心に国際関係を研究している自分には後者の方が合っていると思った次第である。この点については学部&カレッジの先輩にあたる池本大輔先生も同じようなことをブログで仰っている。

daisuke-in-oxford.at.webry.info

理由の2つ目は、コミュニティとしての魅力である。St. Antony'sはコミュニティの規模も大きい上、出身地が多様で非常に国際的である。Nuffieldはこの点についてはよく分からないが、人数が少ないと必然的に交友範囲は限られるだろう。要は施設などのハード面とコミュニティとしてのソフト面を天秤にかけ、後者を選んだわけである。

まあ、そうは言っても、Nuffieldはオックスフォード/イギリス/ヨーロッパの社会科学研究の中心の1つとして機能していることは間違いないだろうし、充実した支援、ネームバリュー等は大きな魅力であり、上記のような理由はあってもなお、自分もナフィールドが羨ましくなることはよくある。社会科学系でオックスフォードに出願する人は、私が挙げたような理由が問題とならなければもちろん、多少気になってもナフィールドに希望を出してみることは間違いなく良い選択肢だと思う。

何だかNuffieldの話だかSt. Antony'sの話だかわからなくなってしまったが、他のカレッジは研究上の関わりは全然ないので、次回から取り上げるカレッジは学問的な取り上げ方にはならないはずである。乞うご期待!