紅茶の味噌煮込み

東京駆け出し教員日記

2019年4月-6月に読んだ小説

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去年は7月末までイギリスにいて、イギリス最高の季節を満喫することができたのだが、今年は6月に日本で学会発表があったこともあり、梅雨時を日本で過ごすことになってしまった。日本にいるのに最悪な季節は、イギリスにいるのには最高の季節なのだ。来年はこの分を取り返したい。

さて、今年から3ヶ月単位で読んだ小説をまとめ始めたのだが、また3ヶ月が経ったので4-6月分の小説をリストアップしたい。1-3月は、45冊と、およそ2日に一冊ペースで小説を読んでいたのだが、これはカタールでの生活であまりに時間が余っていたことによる外れ値であった。さすがに年中同じペースで読めるわけではない。

ということで、2019年第二四半期に読んだ小説は20冊であった。4.5日に1冊ペースで、前と比べると結構ペースが落ちている。まあ結構忙しかったのでこんなものだろうか。 

日付 タイトル 著者
4/5 黒幕 (新潮文庫) 池波 正太郎
4/5 ニワトリは一度だけ飛べる (朝日文庫) 重松 清
4/6 家族シアター (講談社文庫) 辻村 深月
4/15 武士の紋章 (新潮文庫) 池波 正太郎
4/15 民王 (文春文庫) 池井戸 潤
4/15 谷中・首ふり坂 (新潮文庫) 池波 正太郎
4/17 堀部安兵衛(上) (新潮文庫) 池波 正太郎
4/22 堀部安兵衛(下) (新潮文庫) 池波 正太郎
4/26 監督と野郎ども (集英社文庫) 川上健一
5/13 凍りのくじら (講談社文庫) 辻村 深月
5/19 奥様はクレイジーフルーツ (文春文庫) 柚木 麻子
5/19 海の見える理髪店 (集英社文庫) 荻原 浩
5/21 罪の声 (講談社文庫) 塩田 武士
5/23 サンティアゴの東 渋谷の西 (講談社文庫) 瀧羽 麻子
5/28 サブマリン (講談社文庫) 伊坂 幸太郎
6/12 明るい夜に出かけて (新潮文庫) 佐藤 多佳子
6/20 細雪(上) (新潮文庫) 谷崎 潤一郎
6/20 細雪(中) (新潮文庫) 谷崎 潤一郎
6/20 細雪 (下) (新潮文庫) 谷崎 潤一郎
6/20 玉麒麟 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫) 今村翔吾

今回は、時代小説は池波正太郎の5冊と今村翔吾の1冊だけで、残り14冊は谷崎を除いて最近の小説であった。荻原浩の『海の見える理髪店』と佐藤多佳子の『明るい夜に出かけて』は、それぞれ直木賞山本周五郎賞の受賞作で、評価の高い作品であったから、ずっと読みたかった。

海の見える理髪店 (集英社文庫)

海の見える理髪店 (集英社文庫)

 
明るい夜に出かけて (新潮文庫)

明るい夜に出かけて (新潮文庫)

 

荻原浩は、前も書いたかもしれないが、『オロロ畑でつかまえて』などのユーモア系小説から、『明日の記憶』などの感動作、さらに『二千七百の夏と冬』のようなスケールの大きい小説を書くことができる素晴らしい書き手で、何か読むものに迷ったらとりあえずこの人を選んでおけば間違いない。

オロロ畑でつかまえて (集英社文庫)

オロロ畑でつかまえて (集英社文庫)

 

佐藤多佳子は高校生~大学生くらいの主人公を描くのが抜群に上手い、青春小説で有名な作家で、多分一番有名なのは『一瞬の風になれ』や『しゃべれどもしゃべれども』だが、私のおすすめは『黄色い目の魚』である。

黄色い目の魚 (新潮文庫)

黄色い目の魚 (新潮文庫)

 

ただ、肝心の『海の見える理髪店』と『明るい夜に出かけて』は、正直そこまで自分には響かなかった。 ファンとしては、もっと面白い同著者の作品があるよ、と言いたくなる。

そんななか、今期で一番面白かったのは、意外にも谷崎潤一郎の『細雪』だった。「意外にも」と書いたのは、私は個人的に、小説も研究も、「実感」に合うものが好きで、芥川賞的な作品よりも直木賞的なものがタイプなため、文豪が書いたブンガク的な小説は、仕方なく読むものを除いてあまり真剣に向き合ってこなかった。小説に求めているものが違うのかもしれないが、好きな小説家として文豪を挙げられると、この人は文学をファッション的に使ってるんじゃないのかな、と斜に構えて見てしまう時がある(相手による)。

細雪』も、実は三浦しをんの『あの家に暮らす四人の女』という、『細雪』を三浦しをんがアレンジした小説を読んで面白かったので、元の方も読んでみたいと思ったのであった。正直読んで面白く感じるか危惧していたのだが、まったくの杞憂であった。言うまでもないが『細雪』は(実はそんなに大きなイベントが起きるわけではないが)ストーリーも文章も秀逸で、特に戦前の関西の上流階級の暮らしぶりや会話に興趣があり、自分には関係ないのにノスタルジーすら感じた。義務感なしに次をどんどんと読みたくなる「昔の小説」は、相当久しぶりであった。自分の「実感」が文学に追いついてきたのだろうか。というのは買いかぶりかもしれない。

細雪 全

細雪 全

 

日本にいると、まだKindle化されていない本を買えるので嬉しい。また、普段Kindleでばかり本を買っていると、新しい著者を見つけるのがすごく難しいので、やはり書店に実際に足を運ぶことができるのは大きなメリットだなと思う。にしても日本の梅雨は嫌いだ。