紅茶の味噌煮込み

東京駆け出し教員日記

論文をオープンアクセスにする

ブログを1ヶ月近くも放置してしまった。帰国してホテルで自主隔離をして以降は、ずっと実家で研究をしている。ヨーロッパの緊迫した状況に比べると、日本は緊急事態宣言が出てもまだまだ牧歌的で、それが逆に恐ろしいくらいだ。なので感染の可能性やロックダウンによる日々のストレスはそんなに大きくはないが、いつになったら戻れるのか、目処が立たないのが悩ましいところだ。早くヨーロッパの第一波とアジアの第二波が終わってほしい。

今日は最近の研究のアップデート(?)として、論文をオープンアクセスにした話について書こうと思う。「オープンアクセス」とは、デジタル大辞泉によると、

学術論文や学術雑誌の掲載記事が、インターネットを通じて誰でも自由に閲覧できること。

である。論文を掲載しているデータベースへのアクセスには、通常お金がかかる。そのため、それを購読している大学の所属を持っているか、自分でその都度お金を払わないと、論文を読めないのだが、オープンアクセスの論文は、例外的に誰でも購読無しで読めるのだ。

じゃあなぜみんなオープンアクセスにしないの?という疑問が浮かぶかもしれない。それは、オープンアクセスにするにはお金がかかる仕組みになっているからだ。著者が、その雑誌を出版している出版社に対して、読者が購読することで出版社が得られたであろう分のお金を肩代わりすることで、誰でも読める状態にしてもらう、ということである。なんで著者がお金を払わないといけないのだ、逆じゃないのか、と思われる向きもあるかもしれない。実際、出版社が課すこうした購読料やオープンアクセス費用といったものに反対し、完全にアクセスフリーな雑誌を作ろうという動きも、特に自然科学系では進んでいるようだと聞く。しかし、現在のところ政治学ではそういう雑誌は、少なくともメジャーどころでは聞かない。お金を払わないといけないのが現状である。

オープンアクセスにするメリットは、より多くの人に読んでもらえるということだ。もちろん、研究者コミュニティでは大学や研究機関に所属している人が多いから、自分の所属組織を通じてアクセス権を持っている人が多いだろうが、そうでない読者にも論文を読んでもらうためには、オープンアクセスは有効である。また、研究者であっても、たまたま検索で引っかかった、面白そうだが直接研究テーマには関係ない論文を見かけたとき、すぐにPDFファイルに飛べればダウンロードするが、わざわざ大学のシステムにログインして、検索してダウンロードするというひと手間がめんどくさいためにダウンロードしない、ということもあるだろう。私も身に覚えがある。オープンアクセスにすることで、そうした潜在的な読者を逃す可能性が下がる、というメリットもある。

それでは実際オープンアクセスにすることでどれだけの効果が見込めるのだろうか。下の写真は、私の論文が掲載されたDemocratizationという雑誌の掲載号だが、論文の右下に付いているオレンジ色の鍵が外れているマーク、これがオープンアクセスを示すマークだ。私はつい数日前にオープンアクセスにしたばかりなので、まだアクセス数がそれほど伸びていないが、上の2つの論文は、他の論文に比べて圧倒的にダウンロードされていることがわかるだろう。もっとも、ダウンロードする=読むではないので、実際のきちんとした読者の数は変わらないという可能性もあるが、そこはわからないし、オープンアクセスでない方が読者が多くなるという可能性は間違いなくゼロなので、とりあえず目につく数を増やすのが合理的だろう。

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そうした観点から、私が以前所属学部で受けたキャリアセミナーでは、論文のリーチを広げるために、可能な場合はオープンアクセスにすることが勧められていた。私はそのとき既に論文を出したあとで、どうせオープンアクセスにするには多額のお金がかかるのだろうと思っていたので、あまり関心を持っていなかったのだが、奇しくもコロナのせいでフィールドワークや学会がキャンセルになり、研究費が余ったので、急遽オープンアクセス化を検討し始めた。

まず、出版した後にオープンアクセスにできるのかと、いくら掛かるのかを調べようということで、出版元のTaylor & Francisに問い合わせのメールを送った。メールはわりあいすぐに返ってきて、そこで意外な事実を知った。なんと、オックスフォード大学はTaylor & Francisと協定を結んでいるため、構成員である私はオープンアクセス費用が75%オフになるというのだ。これは驚きの朗報であった。

その結果支払うことになったオープンアクセス費用は、£523.75+税金で、合計£628.50ポンドだった。つまり、通常料金は税抜で2000ポンドあまりだということになる。500、600ポンドなら、所属大学院から補助を得るなどすれば、出せない額だと思うが、2000ポンドあまりとなると、なかなかハードルが高いだろう。私もこのディスカウントがなければ、おそらくオープンアクセスにするという選択はしなかったと思う。しかし同時に、このような協定があるならば、論文出版したてのフレッシュな段階で、最初からオープンアクセスにしておきたかったというのも正直なところである。まあ、今知ることができたのだから、よしとしなければならない。

それぞれの大学が協定を結んでいるかは各自ご確認頂きたいが、もしこうした形で割引を受けられるならば、論文のオープンアクセス化は、検討するに値すると思う。ご参考になれば幸いである。