紅茶の味噌煮込み

東京駆け出し教員日記

自粛生活、その後

前回の更新からまた時間が経ってしまった。単調な自粛生活をしていると、時間が経つのは恐ろしいほど早く、日本に帰ってきてはや2ヶ月以上が過ぎた。4月の半ばくらいにはイギリスに戻れるかな、なんて考えていたのに、もう6月である。

その間何をしていたかというと、実家の半径2キロ圏内くらいに閉じこもって受験生のような生活をしていた。というかしている。少しオンラインでティーチングをしたり、セミナーに出たりということはあったが、基本的に博士論文の執筆に時間を費やしていた。

今私は博士課程の3年目だが、3年目の終わりまでに、博士課程の第二関門である、Confirmation of statusをクリアしないといけないためだ。Confirmationとは何かというと、学部によって違うのだが、私の所属する学部では、博論のイントロ+2章の合計3章(3万ワード以内)を提出し、Transferのときと同様、指導教員以外の2人の教員による審査を受けるプロセスのことを意味する。博論の字数制限は最大10万ワードなので、3万ワードというと、だいたい博論全体の1/3程度にあたる。それをせっせと書き進めていた。

コロナ以前の世界では、この合間に学会やフィールドワークがあり、また日々の生活でも友達と会ったり飲みに行ったりしていたわけだが、もはやそんなものはない。なので日々散歩以外の外出をせずに過ごしていると、本当に受験生の頃の生活を思い出す。大学に入ってからは、あんな彩りのない生活がよくできたものだなと思い返していたのだが、最近は、人間そうせざるを得ない環境に置かれると、意外に適応できるものだな、と思う。

とはいえ、四六時中研究をしているわけではなく、空いた時間に何をしているかというと、ゲームと短歌と筋トレと散歩である。ゲームは大学に入ってから全然やっていなかったのだが、現実世界で出歩けないと空想世界に目が向くのか、実家にあったPS4をやり始めたら、意外に楽しめた。「コールオブデューティ」や「トゥームレイダー」などをちょくちょくやっている。これも受験生、というか高校生みたいだ。

短歌は2年くらい前に出会って、1年ほど前に自分でも作るようになったのだが、忙しいと忘れてしまい、放置しがちだった。だが帰国してからスイッチが入り、毎日のように歌作をしている。研究とはまったく違う世界に新たに入っていくのは楽しいし、発見も多い。徐々に業界の人の名前が分かるようになってきて、歴史や人間関係、慣習なども見え始め、興味深い。また最近買った歌集などについても別記事で書きたい。

夕方には、毎日筋トレか散歩をしている。意識的に身体を動かすようになって、かえって以前よりも健康になったような気さえする。実家は、山を切り開いた郊外の新興住宅地にあるので、散歩していると、山やら林やらによく突き当たる。また、地図上ではすぐ近くでも、林に遮られていて、大きく迂回しなければたどり着けないということがたびたび起きる。「入れない場所」があるわけである。しかし、実際にはこうした場所には入れないわけではない。まあフェンスで完全に囲われていれば別だが、林をかき分けて進むことは理論的には可能なはずだ。ゲームの中の空間と違い、「設定上入れないスペース」などは現実世界にはない。だけれども、現代人である我々にとっては、道のない場所は「入れない場所」としてインプットされている。中途半端な田舎を歩いていてそういうことに気づいた。 

それにしても、コロナ時代になって思うのは、普通の世界とは、なんと素敵な営みに満ちていたのかということだ。映画館で映画を観て、ショッピングを楽しみ、友達と食事をし、時には電車や飛行機に乗って旅行する。こうした楽しみがなくても、生きていくことはできるのだと自粛生活によって分かったが、それがいかに自分の生活の大切な部分を占めていたかも同時に思い知らされた。もう言い飽きたし聞き飽きたが、一日も早く元の世界が戻ってきてほしいものだ。願わくば旧弊のいくつかを解消した上で。

今はイギリスに戻る時期を探っている。 英国政府が馬鹿げた隔離政策を今頃になって導入しようとしているせいで気が重いが、感染拡大もスピードは遅いが徐々に落ち着きつつはあると思われるので、7月には一旦戻ろうかと思っている。

 

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