紅茶の味噌煮込み

東京駆け出し教員日記

旧年の振り返りと新年の抱負:2023

いつの間にか2022年も終わり、2023年になった。年をとるにつれて、1年が経つのが早くなるとはよく言う話だが、去年に限っては逆に随分長く感じた。というのも、やはり変化の大きい年であったということが一番の理由だろう。夏まではまだイギリスにいたのでそれ以前と変わらない生活であり、比較的時間も早く進んだように感じたが、それでも帰国を見据えるようになり、その準備やイギリスでやり残したことを一つ一つやっていく過程は普段よりも濃度が高かった。ましてや、帰国してからは教員生活のスタートと5年ぶりの東京での生活ということで、色々なことが新鮮であり、吸収すべきことが山ほどあった。

帰国してからまだ3ヶ月半ほどしか経っていないというのが衝撃的で、実際にはもう1年はいるような感じがしている。年を取ると時間の経過が早く感じるようになるというのも、生活がルーティン化して新鮮味がなくなることに起因するという話を聞くが、そう考えると2022年は経過が遅く感じたというのも、さもありなんという感じである。

しかし、教員の端くれになってみて感じるのは、やはり同じ大学内にいても、教員という立場になって見える景色はそれまでとかなり異なるということである。それまでの数年は、目先の研究と将来の就職の心配というのが頭の大部分を占めていたわけだが、今は就職の心配がとりあえずは消えた代わりに、研究にプラスして学務とか職場の人間関係とか、今年度は授業はしていないのだが来年度以降の教育活動とか、おまけに人の雇用の心配まで考えることになる。まあ院生~ポスドク時代の、来年再来年の仕事がどうなるかわからないという状況のストレスは相当なものであったから、それがなくなったというのはかなりポジティブな材料なのだが、立場とか責任というようなものはどっと増えた感じがする。

そんなわけで、1年後の自分がこうなるとは必ずしも分かっていなかった昨年の自分が立てた目標を振り返り、今年の目標を設定したいと思う。

晦日東大寺

昨年の目標:達成状況

さて、昨年立てた目標は、以下の5つであった。

  1. 単著書籍の出版契約を結ぶ:✕ 残念ながらこの目標はまだ達成できていない。設定時点でも書いていた通り、大学出版会からの英語書籍の出版には、こちらでコントロールできない理由で論文以上に時間がかかる。査読があるというのがまず日本の学術出版との違いで、それに下手すると1年くらいかかったりする。その結果が出ても多くの場合そこから査読へのレスポンスレターを書いて、原稿を改訂してようやく契約がもらえる。私の場合、運良く最初の出版社でエディターの関心を引くことができ(これが実は最大の関門とも言われる)、査読に回ることになったのだが、7月下旬に原稿を提出して5ヶ月あまり、まだ査読結果は出ていない。リマインドしつつ、気長に待つ必要があるだろう。少なくとも私の手は一旦離れているので、未達は私のせいではないということにしておく。
  2. 論文を最低2本出版する:△ こちらは、半分達成だろう。幸い、一番のお気に入り雑誌であるEuropean Journal of International Relationsに、新しいプロジェクトの論文を出すことができた。これは個人的にすごく嬉しいことで、ようやくメジャーな場所に論文を出せたという喜びがあったが、もう1本ぜひ出さねばと思っていた論文はまだ出せていない。こちらの方がかけている時間は長いのだが、残念なことにリジェクトが続いている。博論/書籍の一部でもあるので、もはや書籍が出るならこっちはもういいかという若干の諦めモードに入っているが、現在査読中なので結果を待ちたい。というか去年の自分、野心的すぎでは?

  3. たくさん旅をする:◯ これは自信を持って達成したと言える。ケンブリッジでのティーチングや諸々の仕事が終わり、帰国が迫ってきた6月頃からヨーロッパをできる限り旅行しようということで、そこから3ヶ月でスペイン、ポーランドアイルランドラトビアリトアニアギリシャに行った。スペイン(とポルトガル)は私の中で殿堂入りなのだが、ポーランドは事前の印象はそれほど強くなかったが、行ってみると思いの外よかった。ギリシャアテネで学会だったので、今度は島巡りをしたいと思っている。まだ行けていない国があるが、今後はアジアを開拓して、イギリスに長期滞在するときなどにまたヨーロッパを旅したいと思う。
  4. ライフの充実:◯ 多分去年の今頃の自分の中には、出版プレッシャーとジョブマーケットの大変さ、ティーチングの忙しさなどで余裕がなく、それ以外の生活を十分に楽しめていないという危機感があったのだと思う。今でも忙しいのは変わらないが、就職が決まってからはある程度その他の部分も重視した生活ができていたと思う。帰国前にたくさん旅行したのもそうだし、帰国後はぼちぼち諸々の趣味も再開している。
  5. 将来設計:△ 長期的な人生の見通しを立てたい、ということであったが、それに関しては今も立っているとは言いがたい。去年30になって、まあ一般的な日本社会で言えば色んな意味でライフステージが進んでいく人が多いのだろうが、研究者としてはまだようやくキャリアのスタートラインに着いたばかりだし、帰国したとはいっても、必ずしも今後一生日本で生きていくということにコミットしているわけでもない。まあ結局、なんとなくこうなりたいという像は持ちつつ、5年周期くらいで修正していくことになるのかな、と思う。

今年の抱負

以上を踏まえて、今年は以下のような目標を立てたい。

  1. 単著書籍の出版契約を結ぶ:これは去年からの継続。私より1年先に博士課程を終えたケンブリッジポスドク仲間は、査読に大変な時間を経て査読が返ってきたのだが、それでも1年なので、さすがに今年の前半には結果が出るだろう。もちろんだからといって良い結果とは限らないわけだが、書籍はデスクリジェクト率が非常に高くレビュー後のリジェクトは少数派と聞くので(と言いつつこの間会った人がそのリジェクト経験者だった)、期待したいところだ。
  2. 論文1本出版+1本投稿:去年がちょっと野心的すぎたのと、書籍を最優先にしたいので、論文に関しては少し控えめな目標にしておく。1年に1本論文を英語で出し続けるというのが、私のこれからの努力目標。ただ単著でフルペーパー、歴史的研究となるとなかなか量産するのは難しく、コロナ以降査読にかかる時間も伸び続けているから、これでも簡単な目標ではない。
  3. 研究の種まき:やはり就職の上で業績が必要、ということでここ1年ほどは既にやった研究をどうにかして出版する、ということに集中せざるを得ず、新たなテーマの発掘は十分にできていなかった。英文書籍を出した後の日本語版なども含めると博論関係の研究を出し切るにはまだ数年かかるとは思うが、その後研究者として自分をどのように売り出していくかということも考えなければいけない。第2の単著プロジェクトは非西洋国際関係論の視点から日本近世を扱うと決めているが、同時にこれまで研究してきた資源やエネルギーの問題をもう少し現代的なテーマで掘り下げていくようなこともしたいとは思っている。新しい分野を開拓するためには、すぐに論文に結びつかないような勉強をする時間を確保していく必要がある。
  4. 仲間探し:研究者なら誰しも、自分の論文をこの人たちに向けて書いているとか、この人の論文は出たら読むという、狭い範囲のコアな研究者コミュニティがあると思うのだが、こうした仲間は私の場合今のところ英・欧・豪あたりに集中している。どのみち英語で書いて読んでもらうのだからそれでいいとも言えるが、やはり頻繁に会えるわけでもないので、身近な国内にそうした仲間を増やしたいというのも正直なところである。シンパシーを感じる人と連携しつつ、院生など下の世代とも繋がりを作りながら、研究者コミュニティを国内に作っていきたいと思う。これは来年の目標というよりもう少し長期的な目標になるだろう。
  5. 複数の短歌新人賞に応募する:私は数年前から短歌を趣味の1つとしているのだが、結社に所属して何とか歌を作り続けてはいるものの、海外では歌集を入手しにくい(+本を増やしたくない)とか、賞に応募するにも郵送が必要とかいう事情があって、必ずしも「本腰」を入れて取り組んでいるわけではなかった。何であれその道に懸けている人が注ぐ熱量というのは半端なものではなく、私はその熱量の総量は有限だと思うので、既に研究という対象がある私が短歌に注げる熱量というのは、それに懸けている人が注げる熱量には及ばないというのがこの数年の実感ではある。しかしそれでも数年後には歌集を出したいと思っているので、モチベーションにするためにも、結果はどうあれ、帰国を機に短歌の新人賞にいくつか応募してみたいと思う。

  6. 趣味と運動の時間を確保する:東京に帰ってきたことの大きなメリットの一つは、趣味をやれる環境が揃っているということである。上記の短歌もそうだし、最近ハマっているビリヤードも、ちょくちょくやっているスカッシュもそう。イギリスでも、例えばジェントルマンズクラブにはビリヤード台もスカッシュコートもあるだろうが、そんなところに平民の私は入れないので、できる場所を探すのに苦労した。テニスコートはその辺に沢山あるのだが、ロンドンのように縁のない都市において同じくらいのレベルで一緒にやる人を探すのは簡単ではなかった。そう考えると、既に何年も住んだ経験のある都市で、だいたい何をやる環境も近場に揃っている東京という場所は非常にありがたい。最低2週間に1回くらい、テニスまたはスカッシュができる環境を確保できればと思う。

そんな感じで今年も楽しんでいきたい。