紅茶の味噌煮込み

オックスフォード留学記

英米政治学Ph.D出願の記録③:お金の話(前編ー奨学金の重要性)

前回の記事はこちら

penguinist-efendi.hatenablog.com

前回はイギリスとアメリカの博士課程の違いについてまとめたが、今回からは各論に移って、個別の点について紹介していきたいと思う。

何から書くか、であるが、あえてここでは「おカネ」から書き始めたいと思う。これは何も私がカネに目がないことを意味しているのではなく(悲しいかな、カネに目がない人間は研究者を目指さない…)、やはり先立つものは必要というか、ほとんどの博士課程ではフルタイムで研究に従事することが要求されることを考えると、何らかの形で資金が確保されていないとそもそも留学ができないからである。
社費や官費で留学ができる人、あるいは実家が太いので自分はいいから他の人に奨学金をあげてほしいという感心な人以外は、諸々の奨学金をもらって留学することになる。
イギリスとアメリカでは全然状況が違うので、まず別々に概観してみよう。

  • イギリスの場合

イギリスでは、Ph.Dの院生であっても、多くの場合学費を自分で支払うことが求められる。大学毎に独自の奨学金(オックスフォードだとClarendonなど)があったり、政府やEUなどが出している奨学金もあり、個別に応募しなくても考慮されるものも多いのだが、全員が資金をもらえるという状況には程遠い。

要するに、何らかの金策を事前に行っておかなければ、合格しても進学できないのである*1。しかも、多くの場合学費はヨーロッパ内外で倍以上の違いがあり、かつ年々上昇している。金銭的には、イギリスの博士課程は後述のアメリカよりもハードルが高いといえる。イギリスにおいては、奨学金を確保していることが重要であることは、あえてくどくどと述べるまでもない。

  • アメリカの場合

アメリカのPh.D課程の場合、合格者には授業料免除+Stipend(生活費)250-300万円程度が支給されるのが普通で、究極的には自分で奨学金を持参できるかは関係ない

しかし、「究極的には」と書いたのは、「奨学金をもらっている」ということ自体がその人の能力を保証していると大学側が選考でプラスに評価してくれる可能性が(正直そんなに関係はないと思うが)ある*2のと、もう一つ、奨学金を持っていることでTAの負担を減らせるため、アメリカ志望の場合でも奨学金は役に立つからである。

TAの負担を減らせる、というのはどういうことかと言うと、アメリカのPh.D課程では、合格すると合格者にfinancial packageが送られてくる。これは「あなたにはこういう財政的条件で合格を出しますよ」という文書であり、内容はプログラムによるが、だいたい授業料免除とか保険がどうとかstipendはいくらとか書いてある。

問題は、大学からstipendが貰えるといっても、(自分の研究以外に)何もしなくてもお金が貰えるのは1年ないし2年で、標準年限を5年とすると、他の3年ないし4年はTA*3として働く代わりに給料が支給される、という形になるということである。

そこで奨学金があると何が変わるかというと、「私は奨学金でこの1年をまかなえるので、TA契約を1年分それで置き換えて下さい」ということができるのである。つまり、大学からはstipendをもらわないかわりに、TAをせず学業に専念できるというわけである。
アメリカの大抵の大学は融通がきくので、日本の奨学金の支給年度が決まっていても、大学側からもらう、1年目にあてると書かれているFellowship(TAしなくてもお金が貰えるということ)を2年目に回したりすることができ、TAをやらない場合でも学費免除は変わらない。

これまた大学によるが、当初のパッケージは、5年分しか含まれていないことが多い。つまりそれ以上在籍期間が延びてしまうと、その期間のお金はどこかから獲得してこなければならないのである。お金がある大学だと、6年目は応募すれば大体もらえる場合が多いと思うが、奨学金によってTAを置き換えていると、その分のTAを6年目に回す、ということができるので、6年目まで資金確保ができることになるのである。

これらを利用した結果、私がノースウエスタン大学からもらったオファーは、1年目Fellowship+2年目以降いつでも使えるFellowship1年分+3年間TA、というものだったが、私の場合奨学金が4年分あったため、6年間TAをせずに学業に専念でき、最大9年まで資金確保ができている、という計算になった。実際には誰も9年も博士課程に在籍したくないし、TAは経歴として重要なので、1年は誰しもTAをすることになるのだが…

奨学金出願はけっこうめんどくさいにせよ、以上のように、アメリカの場合でも確保しておいて損することはない

  •  まとめ

ここまで見てきたように、イギリスの博士課程を目指す場合、奨学金の確保は必須で、それなしでは社費や官費でない限りは進学がそもそも難しい。一方アメリカの場合、奨学金を取っていることは必ずしも必要ではないが、主に合格後のfinancial packageを有利なものにするために役立つ。
奨学金の応募や選考はかなり面倒なものも多いので、そのコストと見比べながらということにはなるが、やはり奨学金は出しておいて損はないというのが、結論である。

次回の記事では、具体的にどんな奨学金が国内には存在するのか、その違いは何か、またどこに出すのがベストなのかといった点について、述べていきたいと思う。

 

*1:この点について、オックスフォードの進学先の担当者とメールしていて面白いことを聞いた。私の進学先の学部の合格者のうち、半数はオファーを辞退し、その最大の理由が資金不足だというのだ。もちろん他にもっと自分にとって良いプログラムがあった、という理由で辞退した人もいるのだろうが、いかにイギリスではお金が問題かがわかるだろう。そしてこの状況が変わらない限り、イギリスがアメリカに国として学問的競争で勝つことはできないだろう(大規模な政治的変化などが起こらない限り)。

*2:もっとも、社会学の木原さんのブログではこれは「都市伝説」とされており、私も実際そんな気はする。

*3:日本のお飾り的な"TA"とは異なり、ここで言うTAは自分でTAセッションを教えたり、採点をしたり、オフィスアワーを設けたりと、かなり負担の重い仕事である。
特に2・3年目のコースワーク終盤、comprehensive exam(Ph.D studentからPh.D candidateになるための試験)を控えている院生にとっては、TAと学業を両立するのがかなりしんどかったりするらしい。