紅茶の味噌煮込み

東京駆け出し教員日記

2023年のお仕事

2023年もあとわずかとなった。今年は大学教員として完走した最初の年ということもあり、1年の間に行った仕事についてまとめたいと思い立った。年中何か思い立っていれば毎日が吉日なので、チョロいもんである。これがライフハックというやつに違いない。

学術論文

最初は学術論文から。今年は幸いなことに、2本の英語論文を以前から目標にしていたジャーナルの一部に掲載することができた。正確にはアクセプトが去年のものもあるのだが、issue numberが付いた時点で都合よく判断している。何なら去年もカウントしたかもしれない。

  1. Mukoyama, Naosuke. (2023). The Eastern cousins of European sovereign states? The development of linear borders in early modern Japan. European Journal of International Relations, 29(2), 255-282. https://doi.org/10.1177/13540661221133206 
  2. Mukoyama, Naosuke. (2023). Colonial Oil and State-Making: The Separate Independence of Qatar and Bahrain. Comparative Politics, 55(4), 573-595. 

    https://doi.org/10.5129/001041523X16801041950603

2の方は数年前からリジェクト続きだった論文なので、今年業績が出たというのははっきり言って偶然に過ぎない。毎年複数英語で評価の高いジャーナルに査読論文を出し続けるというのは、私のやっている研究の性質からもあまり現実的ではない。

査読の時間も長くなっているし、運良くスムーズにアクセプトされてもそこからissue numberが付くまでに数ヶ月は待たされるわけだから、1誌目で修正無しで通ったりするミラクルが起こらない限り、論文が最初に投稿した年を発表年として出版されることはあまり期待できない。

そう考えると、現在査読中の論文はないので、2024年に出して年内にアクセプトというのはあり得ても、おそらく来年を最終的な発表年とする英語査読論文は出ないと思う。まあ来年に関しては、単著書籍が出るので業績なしの年にはならないから、来年中に投稿して2025年の出版年が付く論文を準備することで何とか切れ目のない業績を維持していきたいと思っている。その他では、多分book chapterが日英1つずつ出る予定。

教育

今年は初めて東大で授業を担当した。後期に公共政策+αで自分の取り組んでいるテーマ(Non-Western International Systems in Historyという題目)で英語のゼミを教えていて、少人数+自分の関心ど真ん中の内容+大学院生ということで、チャレンジングだが楽しんで教えている。

もう1つ、今年だけピンチヒッターで頼まれて駒場の英語プログラム、PEAKの政治学・法学入門の政治学部分を急遽教えることになった。イントロの授業というのは範囲が広すぎて何を教えるか(何を教えないか)決めるのが難しい。そして自分が1年生だったのが10年以上前なので、学生が何を知っていて何を知らないものなのか、見当もつかない。教員としての経験を積めば教師として分かるようになるのだろうが、今の私はその相場感がない一方で学生としての記憶もないので、戸惑うのみである。余談だが、学内非常勤が無給であるのにははっきり言って衝撃を受けた。

ところで、かなり久しぶりに駒場に足を踏み入れると、本郷との雰囲気の違いに驚く。駒場には今でも立て看板があふれていて、student activismがほとんど目につくことのない本郷とは大きく異なる。教員として知っているべきなのかもしれないが、この違いはどこから来るのだろう?また、自分が学生だった時と比べて、明らかにキャンパスが国際化しているのが分かる。英語や他の外国語がそこかしこで飛び交っているのだ。本郷は大学院生も多いため以前から比較的多様であったが、駒場はこんな感じではなかった。今の1・2年生が羨ましい。

その他の書きもの

今年は学術論文以外にも、2つほど記事を執筆する機会を頂いた。

  1. 「研究者が短歌と出会うとき──湯川秀樹永田和宏に学ぶ「趣味」と「本業」への向き合い方」WEBアステイオン 
  2. 「国家が死なない世界」『公研』10月号

私は博士のときにサントリー文化財団から「若手研究者のためのチャレンジ研究助成」というものを頂いたのだが、そのご縁で去年『アステイオン』本体に執筆依頼を頂き、今回はウェブ向きの記事をということで、悩んだ末短歌を取り上げた。『公研』の方も今回が2回目の執筆となったが、考えてみればこちらもサントリー文化財団助成の中間報告会をきっかけとするご縁なので、サントリー文化財団様には足を向けて寝られない。今確認したが、自宅のベッドは北に足を向けるようになっていたので、大阪には向いていないようで安心した。

受賞など

今年は極めて幸運なことに、賞を頂くこともあった。

  1. Merze Tate Prize for Best Article in Historical International Relations 

  2. 東京大学卓越研究員 

1の方は、私の「ホーム学会」であるInternational Studies AssociationのHistorical International Relations分科会の論文賞。一応キャリアステージを問わない論文賞だが、実際は若手を優先しており、去年の受賞者も一昨年の受賞者も知っている人。ISAは巨大な学会だが、分科会レベルになるとかなり顔見知りの世界になり、それが心地良くもある。1年に1回、この分科会の人たちとキャッチアップするのが楽しみ。

実は数年前に、この分科会の院生論文賞にもノミネートされたことがあるのだが、そのときは佳作で、本受賞ではなかった。そのときには佳作には盾や賞状などはなかったのだが、去年は佳作にも盾が与えられていて羨ましかったので、今回は本受賞で盾が必ずもらえるのが嬉しい。

2は東大が毎年若手教員に与える、賞というよりは研究助成である。5年間比較的自由に使えるまとまった研究費がもらえるというありがたい制度。特に文系は科研以外に複数年度の一定額以上の研究費が本当に少ないので、これをもらえたおかげで研究費応募に汲々としなくて済むのは大変ありがたい。といっても、研究ユニットの運営等の自分の研究以外の理由から外部資金を取ってこなくてはならないという状況は依然としてあるのだが・・・。

そんな感じで、今年ももうすぐ仕事納めである。