去年から、ブログを月間3記事以上のペースで更新し続け、時には無理やり月末に無意味な記事を書いて帳尻を合わせるなどしてきたのだが、先月はついに2記事で終わるというミスをしてしまった。もちろん後から記事の日付を変更してさも8月中に書いたかのように設定することはできるのだが、そのような歴史修正主義者のごとき態度を取ることができない正直者であるところの私は、甘んじて自らの失敗と向き合うことにした。
いつもは月末に何らかの記事を書くのが通例なのだが、それができなかった理由は、旅行である。8月末から9月第一週にかけて、フランス・ドイツ・ベルギーの大陸ヨーロッパを旅行してきた。ヨーロッパに留学することの圧倒的なメリットの1つは、早く安く外国に旅行ができることである。わずか2時間程度のフライトで、イギリスからスペインにも行けるし、チェコやクロアチアのような中東欧諸国にも行ける。イギリスのパブで一杯やったあと、数時間後にはプラハのパブで注文しなくても無限に出てくるチェコビールを飲むことができるのだ。
この点、どこまで行ってもアメリカかカナダ(かメキシコ)の北米大陸とは全然違う。こういうことをアメリカ人やアメリカ留学中の人に言うと、高確率で「アメリカは1つの州が1つの国みたいなものだ」と返されるのだが、それにはあえて反論はせずに、にっこり笑いながら憐れみの視線で応えよう。ちなみに私はトロント留学中にハンガリー・チェコ・オーストリア・スロベニアに旅行した。
フランス・ドイツ・ベルギーを巡る
それはよいとして、今回の旅行は飛行機を使わない旅程にした。イギリスは島ではないかと思われるかもしれないが、もちろんドーバー海峡を泳いで渡るような血迷ったマネをしたわけではなく、イギリスと大陸をつなぐ、ユーロスターという高速鉄道が存在するのだ。ロンドンからはパリ行きとブリュッセル行きがあり、これを利用して、パリから旅をスタートして、フランス→ドイツ→ベルギーと鉄道やバスで移動し、最終的にブリュッセルからロンドンに戻るという旅程を立てた。
なお都合が良かったのは、フランス・ドイツ・ベルギーそれぞれに、訪ねる友達がいたことである。というよりも、友達がいるところを回る旅程を立てたというべきだろうか。パリとストラスブールには、大学時代の友人が外交官としてそれぞれ留学中であり、ドイツとベルギーには、オックスフォードでのベストフレンドたちが住んでいる。これ以上ないめぐり合わせだ。
私は旅行が「概念」として好きなのだが、相当親密な間柄でない限り、最初から最後まで1週間もずっと人と一緒に行動する、というのが苦手だ。途中で息がつまり、1人になりたくなる。一方でずっと一人旅をするのも、感想を分かち合う人がいなくて味気ない。なので、行く先々で知り合いに会う、という旅のやり方が一番合っているのだ。
使い勝手の悪いユーレイルパス
さて、まず旅の始まりはロンドンのSt. Pancras駅からパリ北駅へのユーロスターに乗ることなのだが、ここでまず私は大きなミスを犯してしまう。私はいつも新幹線に乗るとき、事前予約をせずに駅で切符を買うタイプの人間なのだが、今回も鉄道はやっぱりそこがいいよなーなどと思いながら数日前まで切符の予約をしないでいた。実際、通常のチケットを買うのは直前でも問題ない(価格は高くなる)のだが、私の場合、ヨーロッパ鉄道周遊券(Interrail / Eurail Pass)を利用してユーロスターに乗ることにしていた。
インターレイル・ユーレイルパスとは何かというと、期間中ヨーロッパ内の鉄道が乗り放題になるというチケットである。Interrailはヨーロッパ人あるいは在住者用、Eurailは外国人旅行者用である。こう聞くと非常に便利なのだが、問題は、高速鉄道など特定の電車については、追加で座席予約をして料金を払わないといけないということである。それでももちろん価格的にはお得なのだが、このパス用の座席は、数に限りがあるのだ。つまり、ユーロスターのチケット自体は余っていても、パス利用者用の席はかなり早期に売り切れてしまう。そのため、私がようやく予約を思い立ったときには、既に17時発20時着の遅い便しか残っていなかった。それでもまあ、ないよりはマシである。
ユーロスターが良いのは、飛行機のように2・3時間も前に行く必要がなく(1時間前くらいで良い)、手荷物検査も簡易であることだ。車内も快適で、帰りは飛行機で言うプレミアムエコノミーのようなクラスに乗車したのだが、簡単な食事や飲み物のサービスもあった(なぜかそちらの方がチケットが安くなっていた)。座席は新幹線の方が数段快適だと思う。ただ新幹線はスーツケースを置く場所がないのがかなり問題だ。
2度目のパリ
私はNHKBSのドキュメンタリーとか旅番組がとても好きなのだが、好きな旅番組の1つに「2度目の旅」シリーズがある。同じ場所に2回目に行くという体で、超メジャーな観光スポット以外の場所を旅するというシリーズだ。何が言いたいかというと、私はパリは昨年末に一度行っていて、ルーブル、オルセー、シャンゼリゼ、凱旋門、エッフェル塔あたりは一通り制覇しており、今回は2度目のパリだったのだ。
旅行1日目は、友人に遅めの夕食に付き合ってもらって、ホテルで寝ただけで終わった。しかしパリはロンドンと同じくらい「ちょうどいいホテル」の確保が難しい。価格がインフレしているし、安めのところに泊まるとクオリティがぐっと落ちる。しかし連れて行ってもらったビストロはとっても美味しく、改めて「イギリス・・・」と思わされた。ウェイターさんが日本語で「美味しいですか?」と聞いてきて、話してみると日本に滞在経験があって日本人の彼女がいるということだった。店自体は普通のフランス料理のお店なので、偶然。
2日目は、まだ行っていなかった有名スポットのオペラ座とサント・シャペルをさらっと1人で見た後、また友人と合流してランチし、リュクサンブール公園と、モネの作品を多く収蔵しているマルモッタン美術館を回り、その後「廃兵院」(元々傷病兵のための施設だったらしいが、「廃兵」とはすごい言い様だ!私が廃兵なら怒るが、怒る気力のない人を集めて「廃兵」と呼んだのかもしれない。陰湿だ。)に行こうとしたのだが閉館時間になったため、歩き疲れたのでその前の芝生広場で寝転がってぼーっとしていた。この日は夏が最後の力を振り絞って束の間のきらめきを見せた日で、とても天気が良かった分暑かった。しかし夕方になると涼しい風が吹き始め、芝生で寝転がって空を眺めている時間は至福だった。しかし、人は空を見るとき、一体何を見ているのだろう。空はそのまま宇宙に通じているとして、宇宙の果てが想像できないくらい遠くだとしたら、やはり我々の視線はその無限の遠くに向けられているのだろうか、などという取り留めのない話をするのもまたよかった。旅行はやっぱり、観光スポットを沢山巡るよりも、美味しいものを食べて、会う人との会話を楽しむのが醍醐味だと思う。
パリという街自体には観光という意味で思い残すことはあまりないが、何となくまた来たいなと思った。少し名残惜しい。その後日本食レストランが集まるエリアで夕食を取り、解散。パリは日本食レストランが特定地域に多数集中していて、羨ましい。ロンドンだとSOHOのあたりがそれに当たるのだろうが、ここまで集まっていることはないので少しびっくり。
ドイツ的フランス、あるいはフランス的ドイツ
翌日はパリを出て、ドイツとの国境にほど近いストラスブールへと鉄道で移動した。パリはユーロスターが着く北駅とストラスブールへの電車が出る東駅が近いのに別々で、ややこしいなと思ったが、後にブリュッセルでもっとひどい目に遭わされることになる。まあ、東京の電車も相当に複雑であるし、新神戸と神戸、みたいな明らかに悪意を感じるトラップもあるので、他所のことは言えない。
フランスは今までパリしか行ったことがなく、色んな人にパリだけを見てフランスだと思わないで、と言われるのだが、ストラスブールを見て確かに全然違うものだな、と思った。建築も、食べ物も、(第二外国語だったくせに今ではさっぱり分からない)フランス語もきっと違うのだろう。
アルザス地方に位置するストラスブールは、その歴史からドイツとフランスに帰属が度々入れ替わり、文化的にも両方の影響を受けている。そのため建物もドイツ風のものが多く、食べ物もザワークラウトがあったり、地ビールが結構あったりする。ストラスブール在住の友人に連れて行ってもらったお店で食べたシュクルートは、この旅で一番美味しかったかもしれない。その後バーに行って久々にキャッチアップして楽しかった。友人は留学前に結婚したらしく、ほほーと妙に感心してしまった。
旅行4日目は、1人でストラスブールのクルーズに参加したり、少し電車で足を伸ばして、コルマールという、ハウルの動く城で舞台として使われたという近郊の美しい街を見に行ったりした。数日間、平均2万歩近く歩き続けたので、少し疲れが溜まり、この日は早めに寝ることにした。
ここまでがフランス編。次回はドイツ・ベルギー編である。案内してくれた2人、ありがとうございました。