先週からついに授業が始まり、バタバタしていた。オックスフォードは全体的に非効率で複雑で、非常にシステムがわかりにくいのだけど、うちの学部も例に漏れず、どの授業を取らないといけないのか、どのように成績評価がなされるのか、履修登録はしないといけないのかなど、何一つ情報が提供されないまま、みんな頭の上に無数のはてなマークを浮かべて授業を受けていた。よくこれでシステムとして成立するなと思うが、実際学位授与機関として一応成り立っているのだから、フシギである。きっとこの街のどこかで魔法省から派遣された役人が魔法を使って帳尻を合わせているのだろう。
そして先週土曜日(14日)には、Matriculationと呼ばれる儀式があった。英語ネイティブの友達もこの言葉を聞いたことがないと言っていたから、おそらくオックスフォード用語の1つ*1だと思うのだが、要するに入学式である。学部・大学院含めた新入生を、オックスフォードのメンバーとして正式に認めるための儀式だそうだ。これは各人人生に一回しか体験できず、従って例えば学部をオックスフォードでやった人は、院で戻ってきても再びmatriculateすることは許されない。「洗礼」のイメージに近いのだろうか。
で、その日には、学生は写真のようにSub Fuscと呼ばれる決まった服装をしなければならない。サブ・ファスクというのはラテン語で濃茶を意味するらしいが、matriculationや卒業、定期試験などの際に着用を義務付けられる一連の服装のことである。男子学生の場合、以下のものが含まれる。
普通の人は、新たに買わないといけないのはガウンと帽子とボウタイぐらいなものだが、これらはセットになって街の幾つかの店で30ポンドくらいで山積みになって売っている。しかしこうした店で買う以外に入手しようがないので、これらの店は毎年この時期に相当荒稼ぎしているに違いない*2。ガウンの素材も化繊のチープなものだし、正直30ポンドの価値もあるとは思えないのだが、これを着ないと式に出られず、式に出ないと何か大変なことになると脅されているので仕方ない。
まあいずれにしても当日、朝10時くらいからぽつぽつとカレッジの庭に学生が集まってきて、写真を取り始める。そして11時くらいにカレッジ全体の集合写真を撮って、12時くらいからのらりくらりとカレッジ全体で儀式が行われるホールに移動する。儀式自体は、大学のvice chancellorというおばさんがラテン語で一言二言言った後、短い退屈なスピーチをするというだけのことで、あっけないほどすぐに終わった。準備にかけた時間を思うと、なんじゃこりゃ、という感じである。形式を重んじるけれども無駄がいっぱいなところは、いかにもオックスフォードらしいのかもしれない。
その後、カレッジにてビュッフェのランチが提供される。オックスフォードでは色んなイベントで昼間からしょっちゅうワインが出されるから、特に年度の初めは毎日のようにお酒を飲んでいる。ランチが終わると学生は三々五々パブに繰り出し、あるいは真面目な学生は勉強に戻っていく。私は勉強に戻るつもりが、引きずられてパブに行き、別のカレッジで行われるパーティーを見物に行ったり、そこから帰ってきて深夜までビリヤードをしたりして残りの時間を過ごした。
しかしまあ、こうした儀式というものは、紛れもなく非効率で無駄なのであるが、だからといってやめたほうが良いとはぜんぜん思わない。これはこれで重要だと思うのである。この儀式があることで、大学と癒着した街の洋服屋数店舗は潤い、街の写真屋は収入を得ることができ、パブの客は増え、我々はフォーマルに着飾ってカッコいい写真を撮ることができる。大学にちょっとした愛着を感じることもできる。大学がこの儀式をあくまで維持していることで、色んなところに新しい価値が生まれる。何よりまあなんか楽しいではないか。こういう「無駄」な部分にこそ、人生の喜びは宿るのだ、などとちょっと大げさなことを言ってみる。
さあ、そろそろ勉強に戻らなければ。