紅茶の味噌煮込み

オックスフォード留学記

今学期の雑感(MT 2017)①:研究面

あれよあれよと言う間についに今学期の全ての授業が終わってしまった。あとは月曜日にリサーチ・デザインの授業のテストがあるが、それが終われば休暇に入り、ポルトガル旅行からの一時帰国という楽しみな予定が詰まっている。といってもまあ、こっちでの生活が十分楽しいので、そこまで休暇を待ち焦がれているというわけではないけれど。

オックスフォード生活最初の学期が終わったということで、誰の役にも立たないメモ書き程度だが、自分の備忘録と、いつかオックスフォード留学を考えている人の参考になるようにという願いも込めて、今学期のまとめをしておきたいと思う。

まずは研究面からまとめておきたい。まだ見えないことが多いが、とりあえずこれまでの雑感を記しておく。なお、タイトルの「MT」というのは、オックスフォードの3学期(Michaelmas, Hilary, Trinity)のうちの1つ目、Michaelmas Termの略である。

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学部の建物の中
  • カリキュラムと事務はカオス

入学してガイダンスに出るまで、自分が授業を受けなければならないとは知らなかった。ガイダンスの日にファイルを渡されて、そこで初めて授業を、それも1学期目は3つも取らないといけないことを知らされたのである。正確には一度事務の担当者からメールが来ていたのだが、「1年目のプログラムはこれです」と1・2行書いてあるだけで、その内容も、必修なのかどうかも書いていなかった。そもそも合格を知らせるメールが添付ファイル+"Please find attached some good news regarding your application to Oxford!"というだけの文面だったことを思えば、まあ予測できる結果だったと言えるだろう。

その後も、取っている授業の1つにテストがあるということを学期の半ばまで知らされなかったり、来学期の履修登録をウェブ上でしなければならないのにそのシステムが存在すること自体何も連絡がなかったりと、事務はめちゃくちゃである。一体全体、オックスフォードはこの900年間何をしてきたのだろうか…?

この状況が生まれているのは、事務の負担が明らかに特定の人物に集中しているからである。博士のプログラム担当者は1人しかおらず、この人が毎日毎日何通もセミナーの案内やら何やらをメールで送ってくる。全ての情報がこの人に集中しているから、この人を通さないと誰も状況が分からない。しかしこの人は返信の頻度がかなりランダムで、愛想も決して良くはなく、御しやすい相手とは言えない。東大の教務課の方が今の学部の事務よりも何倍も効率的であることは間違いない。

まあそれも慣れるもので、向こうが適当であるということはこっちも適当にしてもある程度大丈夫ということでもあるので、気が楽といえば楽ではある。しかしこれはなんとかしてほしいものだ。いつか大問題につながらないといいが…

  • 授業はまあまあ

今学期はResearch Design and Methods, Intermediate Statistics, IR Theoryという3つの必修授業を取っていた。1つ目は修士と博士のほぼ全員が受けなければいけない授業で、レクチャー+少人数のクラスで構成されていて、毎週リサーチ・デザインに関する色々なトピックをカバーする。しかしこれは、正直リサーチの修士を既にやった自分にとっては退屈で、文献も既に知っているようなものばかりであり、「時間のムダ」感がある授業であった。統計の授業は、それなりに面白いのだが、週1回3時間の授業で毎回「生存分析」「時系列分析」「空間分析」とか、それだけで1学期の授業になりそうなものを猛スピードで上辺だけカバーしていくので、結局自分で使いこなせるようになったかはかなり怪しいものだ。まあそれでも、一応リテラシーを高めることにはなったかと思う。最後のIR Theoryというのは、受講者は博士の同期だけのセミナーで、毎回2人が自分の研究に関する発表をしてコメントを受けるというもので、これは他の院生の研究テーマを知るという意味で刺激にはなった。

まあ結局、オックスフォードでの"コースワーク"というものは単なるにぎやかしのようなもので、意味があるとすれば一番は「他の院生と知り合う機会ができる」ということであろう。イギリスの博士課程は、基本的に自分の研究を仕上げることが目的となるため、ともすると各自が自分の研究に篭りがちである。実際、他の博士の院生と顔を合わせた当初は、カレッジの人々と違って、白人の英語ネイティブがほとんどでとっつきにくいなと感じていたのだが、毎週授業で顔を合わせているうちに段々と打ち解けていき、今ではふとした時に会いたくなるくらいには愛着が湧いている。段々と年次が進むにつれて修士の友人は去り、生活も個人プレーの要素が強くなるだろうから、同じプログラムに所属する友人は貴重である。 また、所属するコミュニティはある程度多角化しておいた方がメンタル面でも何かと良い。

  • 環境は悪くない

私が所属する政治国際関係学部は社会科学の建物の1フロアを当てられているのだが、博士課程の院生は自分のデスクを貰える。実際には全員分は無いようで、抽選に漏れるとウェイティングリストに入って待たないといけないのだが、幸い自分は一度目で当選して、学部の建物にデスクを貰えることになった。最初の方はあまり使っていなかったのだが、ここ最近は学部で勉強する時間も少しずつ増えている。

建物の中にはカフェテリアやコーヒーマシンなどもあって、カフェテリアの食事は意外に悪くないし、コーヒーはタダだ(味はひどいものだけど)(コーヒーについてはこの記事を参照)。建物自体も近代的だがなかなか格好いい建築で、結構気に入っている。(以下に紹介動画がある)

学部の建物にいれば知り合いに会うことも多いし、ノースウェスタンに進学しなかった理由の1つに院生のデスクがない、政治学部の建物がかなり小さいといったファシリティの面があったことを考えると、自分の考えはある程度は正しかったと言えるだろう。

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学部のデスクゾーン
  • セミナーやイベントは星の数ほど

オックスフォードのカレッジや学部や諸々の研究センターでは、毎日様々なセミナーやワークショップが開かれていて、行きたいものも沢山見つかるが、全部をフォローするのは不可能だ。研究発表以外にも、グラント申請書の書き方やジョブマーケットについての話など、実用的なワークショップもよく開かれている。今学期は色々なものを取り敢えずリストアップしたが、結局行ったのは4つか5つぐらいで、それらもそこまで刺激に富むとはいえなかった。もうちょっと戦略的に選んで、面白いセミナーシリーズを発見したい。

  • 同期

今年からIRの博士に入学したのは12人で、これが「同期」ということになる。ただ、オックスフォードで2年間の修士(うちの学部ではMPhilとMScという2種類の修士があり、前者は2年間のresearch master、後者は1年間のtaught master)をやった人は別枠になっていて、数人いるそのカテゴリの人とはあまり会ったことがない。

両者の違いは、我々が1年目はProbationer Research Student(研究生?)という名前で呼ばれ(1st year DPhilと呼んでも良いのだが)、いくつか授業を取らなければいけないのに対し、彼らはその「コースワーク」の段階を既に終えたとして博士の1年目から研究に集中できるということだ。我々の最短修了年数は3年だが、彼らは2+2年で修士と博士を終えることが理論的には可能である。

しかしこの制度、うちの学部だけではなく全学的なものだと思うが、かなり不公平というか差別的である。まるで「オックスフォード以外修士にあらず」と言っているようなもので、他の大学の修士を自分のところの修士と同等とみなしていないことになる。まあ、オックスフォードでMScをやった人もPRSになるので、research masterとtaught masterを区別するのは分からないでもないのだが、例えば私の修士の学位はMPhilであって、修士論文も英語で言えば40000ワードくらいのこっちのMPhilよりも長いものを書いている(まあ長さは別に重要ではないけど)。この制度自体がけしからんものだと思わないでもない。

まあいずれにせよ、同期の12人は、女性4人男性8人という内訳になっており、女性はアメリカ人(ケンブリッジ修士)、ニュージーランド人(オックスフォードMSc)、コロンビア人(イギリスで学部・修士)、あと一人は何人かまだ聞いていなかった(オックスフォードMSc)。男性は、イギリス人(オックスフォード学部、アメリカのPh.Dからトランスファー)、オランダ人(オランダで学部・修士)、オーストリア人(オックスフォードMSc)、カナダ人(オックスフォードMSc)、カナダ人(LSE修士)、アメリカ人(King's College修士)、中国人(King's College&LSE修士)、そして私(日本人、東大学部・修士)という構成である。

こうして見てみると、イギリスの大学に通ったことが無いのは自分とオランダ人の2人だけで、彼もアムステルダム大学出身で英語のプログラムだったことを考えると、おそらく自分が一番「オックスフォードから遠い人間」ではないだろうか。それにしてはよく頑張ったぞ(自画自賛)。 

研究テーマは様々で、内戦研究、大国間関係、戦争における規範、貿易自由化、サイバーセキュリティなど色々ある。自分のテーマに近いといえる人は残念ながらいない。うちの学部の博士はIRとPoliticsに分かれており、入ってから分かったのだがPoliticsの方が多分研究関心が近い人が多く、留学生も多い気がする。さらにPoliticsだと必修の授業がなくてカリキュラムが緩いので、研究に集中できるというメリットもある。まあ、その分友人を作りにくいなど、そっちに行ったら行ったで問題はあったと思うので、今は後悔はしていない。

  • 研究は今学期はあまり進まず

冒頭でも述べたとおり、今学期は予想外に授業を幾つも取らなければいけなかったので、自分の研究にはあまり時間を割けなかったのが正直なところである。これは他の同期も一緒で、みんなで愚痴を言っていた。コースワークをさせるならもっとちゃんとしたプログラムを提供し、しないなら最初から研究に集中させて欲しい。

今学期研究面でやったことといえば、植民地統治・脱植民地化関連の文献を少しずつ読み始めたこと、修士論文を元にした英語論文を何とか投稿したこと(本当は出国前に投稿しようと思っていたのだが…)、そして来年の"フィールドワーク"のために研究助成を申請したことぐらいだ。

なお、指導教員との関係は今のところ極めて良好である。彼は自分の研究をある程度気に入ってくれているみたいだし、色々な示唆をくれるので私としても満足している。

とりあえず、研究面ではこんな感じだ。次回は生活面について書きたい。