紅茶の味噌煮込み

東京駆け出し教員日記

IQMRサマースクール 第1週

今週月曜日から、Institute for Qualitative and Multimethod Research (IQMR) という政治学方法論のサマースクールに参加している。政治学方法論のサマースクールとしては、ミシガン大学で開催されるICPSRが最も有名で規模も大きいと思われるが、量的方法論が中心のICPSRに対し、IQMRは質的方法論+混合手法が中心という違いがある。また、規模もICPSRより圧倒的に小さく、今年は全部で186人が参加しているようだ。期間は2週間で、参加者は初日の統一セッションも含めて10個のモジュール(1日1モジュール)を履修することになっている。

開催地はニューヨーク州にあるシラキュース大学というところで、同大学の Maxwell School of Citizenship and Public Affairsというところが主催しており、Colin Elman先生という人が中心になって動いている。ということでロンドン・ヒースロー空港から飛行機で来たわけだが、アメリカの地方都市は国外からのアクセスがしにくいし、チケットも高くつく。シラキュース空港は今まで自分が外国で降り立った空港の中で一番小さかったかもしれない(ブルネイ空港といい勝負)。

下の画像はサマースクールのカリキュラムで、オレンジで線を引いた授業を自分は受講している。自分にとっての今回の目玉は6/25,26のComparative Methodsで、質的研究と量的研究の相違を明らかにしたThe Tale of Two Culturesを執筆したノースウエスタン大学のJames Mahoneyとノートルダム大学のGary Goertzが教えに来ている。さらに、その後の質的比較分析(QCA)の授業は、その発明者であるCharles Raginが教えるということで、これも楽しみである。QCAは大陸ヨーロッパ以外ではあまり使う人もおらず、米英ではかなり異端視されているが、一度きちんと勉強したいと思っていた。

 ただ残念なのは、黄色で線を引いたモジュール、特にGISとテキスト分析、ネットワーク分析の授業がこれらと被っていることで、面白そうな授業が2週目に集中していることである。まあこうした方法論は別にIQMRで勉強しなくても、他のサマースクールでもよく開講されているのでそちらに行こうと思うが、その結果として1週目の授業は消極的に選んだものばかりになり、今週は正直少し退屈であった。内容面に関しては思うところがあるので、また別の記事で書きたいと思う。

IQMRが工夫しているのは、参加者同士の交流を推進しているところである。全員の顔写真と大学名、メールアドレスが記載された名簿が配られ、1日目にはグループに分かれてランチを共にするというイベントがあり、2日目には全体でディナーがあった。4日目には専門とする地域ごとに集まるというイベントがあり、Facebookグループも作成されてそこで一緒に出かけたりする計画を立てる人もいる。 

さらに、参加者は任意で自分の研究計画を発表する機会が与えられ、ほぼ毎日幾つかのテーマ別セッションに分かれて発表と議論が行われる。似たテーマを研究している人同士が知り合うきっかけが与えられるわけである。 こうした工夫をしてくれる主催者には本当に頭が下がる。

参加者のプロフィールは、8割程度がアメリカの大学から、残りがアメリカ国外からという感じになっており、各大学からは2・3人ほど参加している。オックスフォードからは、毎年政治学と国際関係論から1人ずつ派遣されることになっており、自分の他にもうひとり博士課程4年目ぐらいの中東政治が専門の人が参加している。分野的には国際関係論、アメリカ政治、比較政治、公共政策など幅広く、メソッド専攻と政治理論以外は一通りいる印象だ*1

1週間を過ごして感じたのは、やはりアメリカの大学からの参加者が中心で、アメリカ人が多数派のため、かなり雰囲気がアメリカンだなということである。留学生もアメリカの空気に既に適応している人が多く、出身国が多様でかつそれぞれが自分のバックグラウンドを維持しているイギリスの博士課程の雰囲気に慣れている自分からすると、正直少し気疲れするところもあった*2アメリカ国内の大学だと、共通の知り合いも多かったり、各大学の研究者の名前をよく把握していたりしていることで、会話を数段階飛ばして開始できるというか、バックグラウンドを共有している者の強みが少し羨ましく感じられた。

留学生の中では、韓国出身者がかなり多く、15人近くいるようだ。海外育ちの人もいるようだが、そうでない人もいて、やはり自分にとっては彼らは話しやすい。その他には、トルコやイタリアからの留学組、ケンブリッジから来ているブラジル人、自分が来年フィールドワーク中に滞在したいと考えているシンガポール国立大学から来ている院生などとよく話している。1つ気づいたのは自分は思っていたより、イギリスの環境に染まっているというか、それに居心地の良さを感じているようだ、ということである。アメリカに来て逆にイギリスへの愛着を感じたのは面白い。

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シラキュース大学で多分一番見栄えのいい建物

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リンカーン

 

*1:アメリカの政治学Ph.Dは、アメリカ政治、比較政治、国際関係論、メソッド、政治理論の5つの専攻に分かれているのが通常だ。

*2:アメリカでも、自然科学や経済学などでは留学生が多数派だったりするようだが、政治学社会学アメリカ人がマジョリティで、25%も留学生がいれば多い方である。