紅茶の味噌煮込み

東京駆け出し教員日記

2018年に読んだ小説

言うまでもなく大晦日だ。街は静まり返り、そば屋は年に一度の特需に湧き、うどん屋はそれを見てほぞを噛み、夜になれば誰もその勝敗の行方に興味のない合戦が始まる。プロ野球選手などは「チームの勝利が最優先なので、個人の記録はどうでもいいです」などと殊勝に言ってみせるのがもはやテンプレートのようになっているが、同じことを言う紅白出場歌手を見てみたいものだ。

この時期になるとインターネット上では色々な人が「今年のまとめ」的なことを書いているが、一年を振り返るというのは重要なことだと思う。私は2018年のまとめは年が明けてから、2019年の目標というようなものと一緒に書きたいなと思っている。

今日書くのもまとめといえばまとめなのだが、「今年読んだ小説」のまとめである。本来は「今年読んだ論文」もまとめるべきなのかもしれないが、まあそれはまた今度ということで(たぶんやらない)。私はだいたいやることがないなと思ったら小説を読むタイプで、オックスフォードに来てから電車に乗る時間が激減したこともあって冊数は減ったが、それでもまあ結構読んでいる方だとは思う。ほとんど全てKindleで読んでいるので、いつ買ったかも分かりやすいし、一箇所にデータがまとまっているので収集しやすい。

ということで、2018年に読んだ小説は、手元の集計では68冊。まあ5日に1冊程度のペースだろうか。ちなみに前半日本にいた2017年は89冊だったので、21冊減ったことになる。以下は読んだ本のリスト。

日付 タイトル 著者
1/5 たそがれ清兵衛 藤沢周平
1/7 雪明かり 藤沢周平
1/15 半生の記 藤沢周平
1/15 夜の橋 藤沢周平
1/23 夜消える  藤沢周平
2/11 ながい坂(上) 山本周五郎
2/15 ながい坂(下) 山本周五郎
2/17 彦左衛門外記 山本周五郎
2/22 人情武士道 山本周五郎
2/26 人情裏長屋 山本周五郎
2/26 町奉行日記 山本周五郎
3/6 大炊介始末 山本周五郎
3/6 松風の門 山本周五郎
3/13 雨の山吹 山本周五郎
3/13 花匂う 山本周五郎
3/20 おれは一万石 : 1  千野隆司
3/20 朝顔草紙 山本周五郎
3/24 花杖記 山本周五郎
3/24 ちいさこべ 山本周五郎
3/29 天地静大(上) 山本周五郎
3/31 天地静大(下) 山本周五郎
4/4 美少女一番乗り  山本周五郎
4/4 酔いどれ次郎八 山本周五郎
4/9 羊と鋼の森  宮下奈都
4/9 あんちゃん 山本周五郎
4/9 艶書 山本周五郎
4/20 ひとごろし 山本周五郎
4/20 つゆのひぬま 山本周五郎
5/5 月の松山 山本周五郎
5/5 菊月夜 山本周五郎
5/26 やぶからし 山本周五郎
6/3 逢魔が時に会いましょう  荻原浩
6/17 ならぬ堪忍 山本周五郎
6/17 与之助の花 山本周五郎
6/26 おさん 山本周五郎
6/29 花も刀も 山本周五郎
6/29 一人ならじ 山本周五郎
6/29 dele  本多孝好
6/30 dele2  本多孝好
6/30 神隠 藤沢周平
6/30 無用の隠密 未刊行初期短篇  藤沢周平
7/18 四日のあやめ 山本周五郎
7/18 明和絵暦 山本周五郎
7/18 金魚姫  荻原浩
7/18 三人屋  原田ひ香
7/27 扇野 山本周五郎
7/27 怒らぬ慶之助 山本周五郎
7/27 田園発 港行き自転車 上  宮本輝
8/4 田園発 港行き自転車 下  宮本輝
8/4 あとのない仮名 山本周五郎
8/29 風流太平記 山本周五郎
9/2 山彦乙女 山本周五郎
9/28 梟の城 司馬遼太郎
9/28 火星に住むつもりかい?  伊坂幸太郎
9/28 結婚相手は抽選で  垣内美雨
10/19 新装版 風の武士(上)  司馬遼太郎
10/21 新装版 風の武士(下)  司馬遼太郎
10/23 新装版 俄 浪華遊侠伝(上)  司馬遼太郎
10/24 新装版 俄 浪華遊侠伝(下)  司馬遼太郎
10/26 恋歌  朝井まかて
10/28 真綿荘の住人たち  島本理生
11/3 ギブ・ミー・ア・チャンス  荻原浩
12/4 風雲海南記 山本周五郎
12/7 新装版 白い航跡(上)  吉村昭
12/7 明星に歌え  関口尚
12/15 新装版 白い航跡(下)  吉村昭
12/19 おさがしの本は  門井慶喜
12/21 砂の王宮  楡周平

一見して分かるのは、山本周五郎率の高さ。実に29冊を山本周五郎が占めていて、割合としては43%に上る。ここ2-3年は個人的に時代小説ブームで、まず藤沢周平から入って、ほぼ読み尽くした後池波正太郎に移り(2017年の池波正太郎率は30%)、そして今年に入って山本周五郎へと進んだ。しかし夏頃に山本周五郎もあらかた読み切ってしまい、そのせいで今年の終盤は作家が多様化している。焼畑農業式あるいはバッタ大量発生式読書である。個人的に、この3人を超える時代小説家は今後生まれないのではないかと悲観していて、となるとじきに読むものがなくなるのだが、その話は長くなるのでまたの機会にしたい。

山本周五郎は何を読んでも面白いのだが、あえて挙げるとすればこのあたりはどうだろう。『大炊介始末』の「おたふく」、『花匂う』の表題作、『町奉行日記』の「わたくしです物語」などがおすすめ。

大炊介始末 (新潮文庫)

大炊介始末 (新潮文庫)

 
花匂う (新潮文庫)

花匂う (新潮文庫)

 
町奉行日記 (新潮文庫)

町奉行日記 (新潮文庫)

 

時代小説以外では、伊坂幸太郎『火星に住むつもりかい?』、荻原浩『金魚姫』、宮本輝『田園発 港行き自転車』が面白かった私の中では「困ったときの伊坂幸太郎荻原浩」というのがあって、次何読もうかなと考えてすぐ思いつかないときは、とりあえずこの2人のものを買うと大抵ハズレがない。

伊坂幸太郎は『アヒルと鴨のコインロッカー』以来断続的に読んでいて、ストーリーもさることながら、彼の小説の随所に散りばめられるユーモアが大好きだ。『火星に住むつもりかい?』は、暴走した政府が市民を相互に監視させ、「危険人物」を公開処刑するというディストピア的な世界が舞台になっているが、こういう背筋の凍るようなシステムにも一応の正当化原理はあって、そのシステムの歯車となる人間とそれに流される人間がおり、実際の歴史を考えても、「ありえない世界」ではないのが恐ろしいところだ。

荻原浩は感動系の作品も多いが、『オロロ畑でつかまえて』などのユニバーサル広告社シリーズなどのオモシロ系が個人的にはおすすめ。「情けない人」をユーモアたっぷりに描くのが上手い。

宮本輝は父親の本棚に有ったので時々読んでいたが、『青が散る』などは30-40年前の青春ってこんな感じだったのか、という観点で面白かったが、変なオヤジっぽい説教/床屋政談が入るときがあるのと、いくらなんでもこんなコテコテの関西弁を喋る人はいないだろうというぐらいの喋り方の登場人物が多いために、少し遠ざかっていた。しかし、『田園発 港行き自転車』はスケールの大きい、優しい小説でとても面白かった。相変わらず関西弁はコテコテ過ぎるけど。

火星に住むつもりかい? (光文社文庫)

火星に住むつもりかい? (光文社文庫)

 
金魚姫 (角川文庫)

金魚姫 (角川文庫)

 
田園発 港行き自転車 上 (集英社文庫)

田園発 港行き自転車 上 (集英社文庫)

 
田園発 港行き自転車 下 (集英社文庫)

田園発 港行き自転車 下 (集英社文庫)

 

最後にもう1つ取り上げたいのが、本多孝好の『dele』。ドラマ化もされた小説で、といってもこの作品自体はそんなに自分には響かなかったのだが、本多孝好は元々大好きな作家の1人だ。作品が映画化されていたりもするものの、どちらかというと寡作な方で、それほど有名ではない。そのため好きな作家を聞かれた際に通っぽく聞こえるという点で非常に重宝するのだが、その点はおいても実際に素晴らしい作家で、特に青春小説の優れた書き手である。高校時代に『MISSING』、『MOMENT』、『FINE DAYS』といった作品を読んで、クールで少しナイーブで真っ直ぐな登場人物に魅了されたのを覚えている。新しい作品を読むのが楽しみな作家だ。

dele (角川文庫)

dele (角川文庫)

 

来年は小説だけでなく、一般書や専門書、論文などもまとめられればと思うが、実現されるかはわからない。それでは良いお年を!