紅茶の味噌煮込み

東京駆け出し教員日記

意欲的な学部生のためのアウトプット媒体―懸賞論文という選択肢

研究者の最も重要な仕事は、研究成果を論文や本の形で出版することだろう。どの学問分野にも実に様々な雑誌が存在して、各国の研究者がその研究成果を発表している。研究者志望だと言うと、よく「勉強が好きなんですね」という、恐らく悪気のない、しかしあまり良い気分にはならないコメントを頂くことがあるが、研究者という「プロ」が発表する成果は、オリジナリティがなければならず、単に勉強して調べた結果のまとめではいけないのは、言うまでもないことだ。

しかし、学部から修士、博士へと至る長い期間の中で、最初から誰もがオリジナリティのある「研究」ができるわけではない。というより、最初からできる人などいないと思った方がいいだろう。何かのテーマについて調べ、整理してまとめるという「勉強」あるいは「調べ学習」の段階から、徐々に独自の視点や分析を行う能力を獲得し、最終的にオリジナリティのある研究を行える段階へと移行していくのだと思う。かく言う自分も研究者としてはまだ半人前もいいところだ。

もちろん、早い段階からオリジナリティのある研究成果を出せた人は、それを学術誌に投稿していけばよいわけだが、まだそこまではいかないものの、何か独自の視点が光るものを書けた、あるいは学術論文とまでは言えないが、情勢分析や政策提言の良いものが書けた、という場合には、どうしたらいいのだろうか。単に先生や友達に読んでもらう、というだけでは満足できない。もっと自分の書いたものを世に広く問うてみたい。卒論を本棚の肥やしにしてしまうのはもったいない。そういう意欲を持った学部生、あるいは修士の院生などにとって、1つのオプションは、懸賞論文に応募することだと思う。

懸賞論文とは、様々な財団や公的機関、学会等が主催し、主に学生を対象として何らかのテーマに沿った論文を募集するものである。「懸賞」論文であるため、入選すると賞金や賞品がもらえることが多い。 自分の書いたものを世に問うことができて、しかも賞金までもらえる、まさに一石二鳥とはこのことだ。履歴書の「賞罰」欄に書けるという利点もあるので、三羽目の鳥も降ってくるかもしれない。私自身も、学部生の頃はよく懸賞論文に応募していた。

こうした懸賞論文は、ある程度テーマが限定されていることが多いが、その範囲の広さは賞によってまちまちだ。しかし、様々な分野で募集されているので、自分に合うものがきっと見つけられるだろう。学期末のレポートや、卒業論文など、何かどうせ書かないといけないものがあるという学部生は、もし自分のテーマに適合するようなものがあれば、それを後で懸賞論文に出すことを検討してみてはいかがだろうか。もちろん、賞のために新しく論文を書き下ろすのも良いだろう。

私の専門である国際政治の分野を中心に、以下にいくつか例を挙げてみたいと思う。以下に挙げるものは何年も続いているものだが、それ以外にもアドホックに開催されるものもある。前の「海外院生が応募できる国内研究助成リスト」のように、公開リスト化してもよいのだが、まあそれはもし要望があればということで。

佐藤栄作記念国連大学協賛財団が国際連合大学と共催している賞で、歴史も古く、2018年で第34回を迎えている。テーマは、国際社会の中での国連のあり方、といったものが多い。なぜか第34回だけ応募数が少ないが、例年競争率も高い。最優秀賞には50万円、優秀賞には20万円、佳作には5万円がそれぞれ贈られる。

  • 外交論文コンテスト

外務省が都市出版から発行している「外交」という外交専門誌が主催している論文コンテスト。今年が第7回とのこと。テーマは日本外交関連。最優秀作は誌面上に掲載されるということで、とても夢のある賞である。また、副賞として最優秀論文に5万円、優秀賞に2万円の賞金が授与される。

  • 昭和池田賞

コネクタやリモコンなどを製造しているSMKという企業が母体になっている昭和池田記念財団による論文賞。テーマは複数あって毎年変わるが、毎回「日本の針路、この考えはどうだ!」というテーマが入っていて、その下位区分で「その他」を選べるので、実質的に大体何についても書ける。副賞として、最優秀賞は50万円と奨学金、優秀賞は20万円と奨学金が与えられる、とても太っ腹な賞である。

  • その他 

全部挙げていくときりがないので、他にいくつかまとめてリンクを貼っておく。 

NRI学生小論文コンテスト

税に関する論文

日本貿易会懸賞論文

ヤンマー 学生懸賞論文

  • 最後に

こうした賞は、見返りも大きい分、競争率も高くて、出したからもらえるというものでは当然ない。なので、かける時間と天秤にかけて応募することになるわけだが、たとえ入選しなかったとしても、そこにかけた努力とその過程で得た知見は、決して無駄にはならないはずだ。 

なお、最後に注記しておくと、まず、懸賞論文に応募する際には、その賞がどのような背景を持ち、どのような団体によって、何を目的として設けられているのかを、入念に確認しておく必要がある。すべての賞が名誉になるとは限らない。