紅茶の味噌煮込み

東京駆け出し教員日記

一時帰国中の家問題

今年は学会があったこともあり、比較的長めに東京に滞在していたのだが、数日前に奈良の実家に戻ってきた。イギリスには8月後半に戻る予定である。長期留学の場合、どうしても留学先にいる期間が「本来」で、一時帰国中は半分旅行中のような、宙ぶらりんの状態になる。

さらに、私のように大学から東京に出た人間にとっては、それが三重(「さんじゅう」、「みえ」ではない)になる。つまり、元の所属先の大学とか、友人の大半といった、日本での基盤は東京にあるが、東京に家はなく、逆に実家には家はあるが、そういう基盤はないという状態である。そのため、一時帰国の度に一定期間、東京に滞在することになる。もちろん1週間とかの弾丸帰国なら、わざわざ東京には行かないのだが、夏など、一ヶ月以上帰ってくるような場合には、やはり東京に行って旧交を温めたくもなる。

そこで問題になるのが、どこに滞在するか、である。アメリカ留学中の友人に、大学時代に住んでいた寮の部屋にOBとして滞在できるという人がいるが、そういった場合や、東京に親戚等がいるという場合を除いて、これは意外と大きな問題になるのだ。今回は、この「一時帰国中の家問題」について書こうと思う。

ホテル・ホステル

まず思いつくスタンダードな選択肢は、ホテル、あるいはホステルに滞在するというものだろう。ホテルなら清掃を自分でする必要もないし、まともなところならサービスも行き届いている。快適な滞在ができる可能性が高い。しかし、当たり前だが難点は価格である。都内の(まともな)ホテルだと、Booking.comなどで予約しても、1万円弱くらいはするのが普通で、週単位で滞在するとあっという間に2桁に突入してしまう。また、普通のホテルの部屋というのは概して狭く、長期滞在するのにあまり向いていない。「あら、スイートルームにお泊まりになればよろしいんじゃなくって?」と思ったあなたは、早めに革命に備えることをおすすめする。

価格を抑えるためには、まともではないホテルに泊まるか、ホステルに泊まることになるが、前者をやって東京に滞在したいとまでは、私は思えない。ホステルは、ホテルと比べるとやはり格段に安いようだが、他人と同じ部屋に長期間泊まることに抵抗がない人向け、ということになるだろう。私は1週間少々くらいなら安めのホテルに泊まるが、それ以上になると、ホテルは選択肢から外れる。

Airbnbは日本ではほぼ壊滅

次に我々世代が思いつくのは、Airbnb(エアビーアンドビー)だろう。Airbnbとは、いわゆる「民泊」の一種で、個人が余っている部屋を貸し出すというサービスだ。質も価格もピンからキリまであり、レビューを見ながら宿泊先を決めることになる。個人がやっていることなので、当然一定のリスクはあり、Airbnbを利用した犯罪などもどこかでは起きているだろう。

Airbnbは、アメリカやヨーロッパなどでは非常にメジャーな選択肢であり、私も友達とポルトガル旅行に行った時や、ロンドンで資料収集をした際に利用したことがある。しかし、日本では、昨年住宅宿泊事業法が施行されたことにより、ホストがAirbnbを利用するハードルが相当程度上がり、その結果として一気に物件が激減してしまった。今では、高価な物件だけが少数残り、手頃な部屋はほぼ壊滅状態になっている。日本では現状、Airbnbはほぼ使い物にならないというのが、私の実感である。

また、そもそも、民泊というのは、ホストが本当にきちんと管理や清掃をやっているのか保証されていないという点で、私には何となく信頼できないところがある。もちろんホテルや旅館、ホステルであっても杜撰な管理をやっているところはあるのだろうが、今までの経験では、評価が高いような部屋でも行ってみると髪の毛が落ちていたり、設備が整っていなかったりして、非常にがっかりすることが多かった。正直、私はAirbnbを利用して期待以上の体験をしたことは一度もない。

ウィークリー・マンスリーマンションは高くて手続きが面倒

そうなると、次に選択肢として考えられるのが、ウィークリー、マンスリーのマンションである。マンスリーマンションと言うと、ほとんどの人が反射的に「レオパレス」と言うのだけど、実際には色んな会社が短期の賃貸物件を提供しており、グッドマンスリーなどのサイトでまとめて検索することができる。

Airbnbのような素人がやっている賃貸とは異なり、一応きちんとした企業がやっているわけなので、トラブルが起こる可能性は低いだろう。しかしながら、これらの難点は、まず価格にある。借りる期間にもよるが、だいたい家賃は、普通に長期で借りる場合と比べて1.5~2倍になる。これにはからくりがあって、検索してみると、ぱっと見では標準的な家賃に見えるのだが、よく見ると、管理費や光熱費をそれぞれ日額700円ほど取られ、結局4万円以上家賃が上乗せされる、などということが当たり前になっているのだ。また、ウェブサイトに載っていても、空き状況は個別に問い合わせしなければわからず、非常に面倒だ。さらに、実際の契約には審査があり、時間もかかる。Airbnbのように、ウェブサイト上で予約も支払いも5分でできる、などということはないのだ。

OYO LIFEは新たな選択肢になるか?

そんな中、今年3月に突如現れたのが、OYO LIFEというサービスである。インドのホテルチェーンが、「旅するように暮らす」をコンセプトに日本で展開する新サービスだ。基本的にはマンスリーマンションと同じ、家具家電付きの部屋に30日以上滞在するというサービスなのだが、違うのは空室確認や予約、支払いなどの手続きがインターネット上で完了するということだ。本来はノマドワーカー的な人たちを対象にしているようだが、一時帰国中の海外在住者にも使えそうなサービスである。価格はマンスリーマンションと同じくらい高額だが、手続きが簡素なのはありがたい。なお、ここまでの情報は基本的に東京以外にも置き換え可能だが、OYO LIFEは今のところ東京近辺にしか展開していない。

さて、ここまで書くと、この記事はOYO LIFEを勧めて終わるのだな、とお思いの方も多いかもしれないが、残念ながらそうではない。私は今回の東京滞在でこのサービスを利用していたのだが、正直に言って、現状のままでは二度と使いたくないと思わされる体験だった。あまり詳細に書くのもあれなのでやめておくが、清掃、設備、セキュリティ、カスタマーサービスの対応、どれを取っても、よくこんな状態でサービス開始に踏み切ったな、と怒りを通り越して呆れてしまうほどであった。最初はあまりのことに驚いて、新手の詐欺かなんかに引っかかってしまったのかと思ったが、実際に直接中の人と会うと、むしろ学部生時代に何度か目にした、しっかりしていない学生団体の運営を思い出した。

もっとも、コンセプトとしては期待できるし、こちらからしかるべきアクションを(何度も)取れば一応(言葉の上では)まともな対応が返ってくるので、ぜひとも何とか今後サービスの向上を行って頂きたいと思うのだが、現状では、問題が起きなければ快適だがトラブルになるととんでもないことが起こるという、ロシアンルーレット的なスリルを楽しみたい方にしかおすすめできない。

 

というわけで、結局解決策がないという、救いのない記事になってしまった。「あら、都心にマンションを買えばよろしいんじゃなくって?」と言ってポンと出してくれるどこかの王妃がいないかなと思ったが、それこそ多分詐欺である。