紅茶の味噌煮込み

東京駆け出し教員日記

イギリス企業との仁義なき戦い

日本に帰ってきてから1ヶ月半あまりが過ぎたが、国を越えた引っ越しというのは大変なもので、5年間で溜まった荷物や家具などを整理するのも一苦労だったし、5年間住んでいなかった国で新たな生活を立ち上げるのもなかなか骨の折れるものだった。

不動産屋との戦い

私がロンドンの部屋を引き払ったのは8月の末であったが、今頃になってようやく解決した問題がある。デポジットの返金である。ここで言うデポジットとは日本で言ういわゆる敷金のことで、賃貸契約時に一時的に支払わなければならないが、大きなダメージなどがない限りは退去時に返金されるお金である。ちなみにイギリスには日本の謎ガラパゴス慣習である礼金はなく、仲介手数料も大家からもらうことになっているので借り手は払わなくていい。

私の場合デポジットとして契約時に1500ポンド払っていたのだが、部屋を退去した直後に不動産屋からinventory reportという、家の家具や壁や設備の詳しい状況報告が送られてきて、それに基づいてデポジットの返金額を後ほどお知らせします、というメールが来た。しかし待てど暮せどそこから一向に先に進まない。帰国前後は私も大変忙しく、返金のことをあまり考え過ぎるとストレスになるので棚上げしていたのだが、1ヶ月もメールを無視され続けたところでさすがに堪忍袋の緒が切れて、10日以内に返事がなければ、仲裁機関に訴えるという通告を送った。

デポジットは日本の敷金同様揉め事になることも多いらしく、その仲裁機関が存在していて(というかデポジットの管理をしているのが中立の機関で、そこに訴える)、金額などで意見が一致しないときはそこに訴え出て仲裁を受けることができるようになっている。一向に連絡がないのでこのままでは返金が受けられないと思った私は、それがどれだけ効力があるのかは分からないながらも、上記のような「脅し」を送ってみたのである。

しかしその後も一週間返事がなく、期限が迫ってきたので、メールを諦めて直接電話してみると、なんと私のデポジットの手続きを行う担当者が最近退職し、手続きが棚上げになっているということだった。放っておけば一生何も動かなかったかもしれないのである。これには呆れた。イギリスのダメな企業というのは本当にダメで、こちらから相当強く言わなければ、それをいいことにいつまで経っても何もやらない。この点、その弊害はありつつも、日本の諸々の手続きというのは、やはり比較的スムーズである。(他方で日本のシステムは硬直的で融通が利かない、あるいはサービスのために働く人が多大なプレッシャーを受けているという面もあるが…)とにかく、この会社の対応はひどかった。

とにかくふざけないでくれという意味のことを言って、当初に設定した期限以上には待たないからそれまでに手続きを完了してくれと強く出ると、そこからは急ぎで対応されるようになり、数日後に無事デポジットが全額返金された。結果全額返金されてよかったものの、こうした本来戦わなくてもいいようなことについて戦わざるを得ないというのは、イギリス生活で消耗するところである。

まだまだあるダメ企業

イギリスのダメ企業の話は他にもいくつもあって、例えば私が契約していた電気会社だが、ここはある日突然400ポンドくらいの請求書を送ってきて、あなたは支払った額よりも電気を使っているので追加で払ってくださいと言ってきた。意味がわからなかったので問い合わせしたら、間違いだったと言ってキャンセルし、今度はなぜか数字上私が払いすぎていることになっていた。契約が終了したとき、最後のメーターの値を入力する必要があるのだが、以前の高額請求をされたときのメーター値がベースになっていたので、正しいメーター値を基準にして計算してくれと言ったら、最初そういうふうになっていたのだが、またある日突然300ポンドくらいの請求書が来て、案の定以前のメーター値をベースに計算していた。それに対してまた文句を言うと、再度調整されて払わなくてよくなった。呆れるくらいいい加減なのだが、こういうダメ企業はこちらが間違いを指摘すると意外なほどあっさり引き下がったりする。結局ミスを防ぐためにコストをかけるよりも、ミスがある前提でそれを言われたら修正する、という方がある意味合理的なのだろう。

実は大学事務もかなり壊滅的で、オックスフォードやケンブリッジの場合、カレッジの事務は対応も早めである程度優秀なのに対し、学部の事務は返信が非常に遅かったり対応が悪かったりすることが多い(もちろんそうでない人も沢山いるのだけど)。これは多分カレッジの事務職員の身分が比較的安定しているのに対し、学部の事務は入れ替わりが激しく、待遇も悪いことが原因だと思うのだが、私が受けた被害は、2月に教えていた授業の給料が、8月になっても支払われない、というものだった。

事務担当者に何度連絡しても返事がなく、来ても2週間後とかで、ある時点で業を煮やして強い口調で言ったら、ようやく別の事務の人が代わりに手続きをやってくれて、それでその1ヶ月後くらいにようやく支払われた。イギリスから支払いを待っていたものがようやくすべて受け取れたのは、10月も半ばになってからであった。まあ本当に気疲れするものだが、こういうところから来ると、日本の大学事務の方々は本当に仕事の水準が高くて逆に驚いたりする。

私がイギリスで出会った中で歴代1位のクソ企業は、とある保険会社なのだが、その話は別の記事で書こうと思っていることと関わるので、また後日にしたい。