紅茶の味噌煮込み

東京駆け出し教員日記

2019年の雑感

早いもので今年も残り3日となってしまった。昨日日本に帰国し、年末年始を実家で過ごした後、少しだけ東京に行って、そこから渡英する予定である。

しかし我々はとかく「時が経つのは早い」と言いがちだが、一体何に比べて早いと思っているのだろうか。毎年毎年早いと言っているが、毎年早いのなら段々早いのが当たり前になり、早いとは感じなくなるはずである。常に時速300キロで進んでいる人は、新幹線を速いとは思わないはずだ。まあ、早いと速いは違うのかもしれないけど。

とすると、我々の時間感覚は毎年毎年更新されているのだろうか。しかし2018年より2019年が早かったかと言われるとそうではない気がする。もう少しさかのぼって2016年より2019年が早かったかというと、やはりそうではない。しかし2009年より2019年が早かったかと言われると、なんだかそんな気がする。だが、2009年に何があったかを詳細に覚えているほど人間の記憶力は良くないと思うし、2009年の時間感覚などというわけのわからないものが、我々の脳や筋肉に刻まれているなどという荒唐無稽な話を信じないほどには教育を受けてきたつもりだ。

忙しいから時間が経つのが早く感じられるという話はもっともらしいが、それが正しければリタイア後のお年寄りは時間がゆっくり感じられるはずなのに、実際にはご存知の通り彼らこそが「時間が経つのは早い」理論の主唱者である。謎は深まるばかりだが、この謎を解き明かすことに熱中しすぎると、時間が早く過ぎ去ってしまいそうなのでやめておくのが賢明だろう。

閑話休題。そう「閑話休題」という言葉は、関係ない話から本題に戻る時に使う言葉なのに、正反対の意味で使う人があまりに多すぎる。この誤用を見るたびに、もやもやして除夜の鐘を拳で打ち鳴らしたくなる。閑話休題という言葉を逆の意味で使う人と、性癖という言葉を変な意味で使う人のために、言葉のペーパードライバー教習があればいいのに。といいつつこれでは全然本題に戻っていない。

ジェットコースターのような1年

やっと本題に入ると、2019年は25%をカタールで、25%程度を日本で、残りをオックスフォードなどで過ごしたバタバタとした1年だった。正直なところフィールドワークというのは、私のようなタイプの研究には必須とは思えないのだが、現地生活を経験するという意味では面白いものではあるし、何より博士課程の間くらいしか、こうした長期のフィールドワークをしている余裕はないのではないかと思われるので、一応見様見真似でやってみた次第である。結果は予想通り大して実りはなかったが、話の種になるようなことは色々と経験できた。

詳しくは書かないが、今年はどうも、こんなことが自分の人生に起きるものなのかと驚くような悪い出来事と、反対にこんなことが自分の人生に起きるものなのかと驚くような良い出来事が両方起きた、珍しい年だった。思うに、人間の運命というのは、自分ではコントロールできない偶然に大きく左右されるものであり、したがって生きていく上で大事なのは、すべてを統制しようとしてがちがちに自らを固めることではなく、予想外の出来事が降りかかってくることを前提とした上で、悪い偶然の影響を最小限に止め、良い偶然の影響を最大限に活かせるような態勢を整えていくことなのではないだろうか。いつ起きるかわからない地震に対して、頑丈な建物で固める従来の「耐震」よりも、揺れを受け流す「免震」や「制震」が有効であるという最近の建築の知見は、良いアナロジーになるだろう。そんなことを強く実感した。

悪いことも良いことも起きた1年だが、前者が先で後者が後に起きてくれたことは、救いであった。終わりよければ全てよし、というのはやはり正しいなと思う。

目標は達成できたか

今年の年明けに、「新しい年を迎えて」という記事で1年の目標を立てていた。私は夏に学事暦上の1年が終わった際にも振り返りと次の年の目標を立てているようなので、重複するから今年は書かないつもりだが、年始に立てた目標が達成できているか、少し振り返ってみたい。

2019年の年始に私が立てた目標は、以下の5つであった。

  • 英語論文の出版
  • イギリスを知る
  • 日常にメリハリをつける
  • 研究以外の何かを深める
  • ブログは週1を目標に

まず、英語論文の出版は、以前も書いた通り無事達成できた。トップジャーナルにもう少しこだわればよかった、という思いは残っているが、諸事情を勘案すれば、今の時点では十分良い成果を挙げられたのではないかと思う。何より肩の荷が下りた。

「イギリスを知る」という目標は、イギリスに留学しているのに、非常に国際的なコミュニティにいるためあまりイギリス自体のことを理解していない、というところから生まれた目標だが、これもある程度は達成できたのではないだろうか。旅行などは現時点ではあまりできていないが、テレビを買ってBBCのニュースなどを毎日流すようにしていたため、イギリスで今何が起きているのかについては、去年までよりも格段に把握できるようになった。テレビや新聞はもはやアナログで時代遅れのメディアとなりつつあるが、情報を自分で取りに行き、また取捨選択しなければいけないインターネット時代にあって、自分の興味関心の本丸以外のことについては、勝手に流れてくるメディアというのはそれはそれでとても重要だと思う。

次に、「日常にメリハリをつける」というのは、ずっとだらだら研究するのをやめるという意味だが、これも新年度が始まってからは特に、うまく回せるようになった。今までは研究に充てる時間を特に限定していなかったのだが、最近は土日のどちらか一日、または両方半日ずつオフにするということにしており、また夕食後は基本的に研究はしないという方針に切り替えた。結果としてストレスは減り、仕事上も同程度の進捗を生み出せていると思うので、これは成功だと言える。

このように最初の3つは比較的上手くいったが、残りの2つは達成できていない。研究以外に、将来仕事にできるような「副業」的な趣味を持つということは存外難しい。趣味は比較的多い方だと思うのだが、それを副業とはいえ仕事にできるほどのレベルまで高めることは、かかる時間や実力という意味でも、情熱を持つという意味でもなまなかなことではない。これは来年に持ち越し。

最後にブログについては、週1どころか、去年よりも全体の本数は減ってしまった。月3記事を最低限の目標にしてきたのだが、今年の後半は忙しくて2記事がやっとという感じであった。一つ一つの記事が長くなりがちなので、執筆に時間がかかるということもあって、毎日のように更新することはできない。結局ブログというのは、自分のペースでやっていくしかないのだろう。今後も今のようなペースで更新していくことになりそうだ。とはいえ、継続していると認知してくれる人も徐々に増え、アクセス数も少しずつではあるが、右肩上がりに上昇している。これを励みに、定期的な更新は続けたいと思っている。

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というわけで、今年1年、ありがとうございました。来年も「紅茶の味噌煮込み」をどうぞよろしくお願いします。