紅茶の味噌煮込み

東京駆け出し教員日記

索引作成者という仕事

どうも忙しくて前回の記事から時間が空いてしまった。忙しいといっても、別に夜中や土日まで仕事をしているわけではないし、日々7-8時間は寝て友達と飲みに行ったり趣味をする時間はあるのだが、何か気忙しいというか、時間が足りない感じがするのだ。

授業準備やら科研やら、何かと締切が夏に迫っていることが理由だろうが、最も直近の締切が、単著書籍の最終原稿提出である。4月にCambridge University Pressと出版契約を結んだのだが、その経緯などはまた別の機会に詳しく書くとして、契約の条件を詰めているときに、原稿はいつまでに提出できるかと聞かれて、たぶん6月までには終わるけど一応7月末まで、とあまり考えもなく口走ってしまったので、来月末までに原稿を出さなければならない。

一旦締切を設定すれば比較的それを守れる方なので、間に合わないという心配はしていないのと、もうかれこれ5年以上は取り組んでいるプロジェクトなわけだから、いい加減このへんで手を打って手放したいという思いもあり、この締切自体を後悔しているわけではないのだが、誤算だったのは、単に原稿本体を準備する、という以上にやらなければいけないことが多かったことである。

例えば、書籍のカバー写真の候補を選んだり(これはまあ純粋に楽しいから良いのだが)、本のマーケティングのために売り文句やら概要やら何やらを考えなければいけなかったり、そして何より、索引を自分で作成しなければいけない。

この索引、英語で言えばindexだが、これが意外と曲者で、自分で書いた本ではあるが、そこに出てくる重要な概念や人名や地名やらをまとめて、ページを指定して、という作業には思ったよりもかなり時間がかかるようなのだ。これを言うと出版業界の人に見下されるかもしれないが、恥ずかしながらあまり私は索引というものに格別の注意を払ったことがなかったので、多くの学術書で索引が10ページとか20ページとかあることも気にしていなかったし、またそれを(CUPの場合)著者自身がこのタイミングでやるのだということも知らなかった。

まあしかしもっと驚いたのは、この作業を専門にやるindexer、日本語で言えば索引作成者?なる職業の人がいる、ということである。出版社側としては、著者が索引を提出してくれればいいので、別に本人がやる必要はなく、それを外注するのも自由である。ケンブリッジの先生に出版契約の報告をした際に、索引作成を外注するならindexerを紹介するよ、と言われて初めてその存在を知ったのだが、調べてみると、イギリスにもアメリカにも、indexer協会、みたいな団体まで存在し、そこに登録している人を分野などから検索し、直接仕事をお願いすることができる。多くの人はフリーランス個人事業主で、index企業がたくさんindexerを抱えている、というような仕組みではないようだ。

Society of Indexers home page

American Society for Indexing

英文校正に関して英米では業界団体というか組合が存在するのは知っていたが、indexerにもあるのは初耳だった。そもそもindexerが初耳だったので当たり前か。しかしこれが商売として成り立つのがすごい。英語の出版業界の市場規模がいかに大きいか、ということだろう。

自分の作業時間を他に回したいというのもあるが、それよりもこういう仕事があることを知ると、プロフェッショナルの仕事というのがどういうものか知りたくなり、現在前述の先生に紹介してもらったindexerにお願いすることを検討中である。内容面については世界で一番私が詳しいわけだが、索引についてはやはり理解が浅い私よりもプロがやった方が良い索引ができるのでは、という気がする。

しかし問題は費用で、人や原稿の種類にもよるが、私が問い合わせた人は1ページあたり6ドルらしい。私の本は本文だけだとだいたい200ページちょっとになる予定だが、それだと1200ドル、今また円安なので円に換算すると17、8万になってしまう。所属先の今年の個人研究費をここに注ぎ込むことになってしまうので、検討が必要だ。

私の周辺に、最近口を開けば「ChatGPTが~」と言う生きものがいるのだが、indexerの世界では、やはりChatGPTの脅威というものは差し迫った問題として議論になっているのだろうか。いずれにせよ、世の中には色んなプロがいるんだということを改めて感じた経験だった。