紅茶の味噌煮込み

東京駆け出し教員日記

オックスフォードな人々②:マイク

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少し前から日本に帰ってきている。今は東京にいて、古巣の大学に通ったりしているが、夜は頻繁に大学時代の友人と会う予定を入れていて、ちょっと飲み過ぎの感がある。8月末か9月初めくらいに渡英して、フラット探しとヨーロッパ小旅行をしようと思っている。

だいぶブログに間を空けてしまっていたが、残り半月で、通常通り3記事は書こうと思う(自分へのプレッシャー)。ただし達成できなさそうだと思ったら、この文を後から消去しようと思っているくらいには、歴史修正主義者でもある。

さて今回は、新シリーズ「オックスフォードな人々」の第2回ということで、2人目の友達を紹介しようと思う。前回は、我が悪友、ドミニクを紹介したわけだが、今回は、出身国は同じでも、だいぶ毛色の違う友人を紹介する。マイクである。

ドミニクとは異なり、彼とは2年目(正確に言うと1年目が終わった後の夏休み)からの付き合いとなり、期間は短いのだが、仲が深まるのは早く、今ではone of my best friendsとなっている。身長は自称185cm(といいつつ私より心持ち高いくらいなので、実は183ぐらいではないかという疑惑が囁かれている)、痩せ型の体格で、多忙でストレスが溜まっているか、自分が住んでいる部屋に文句があるとき以外は概ね常に柔和な笑顔を浮かべている。この男、現在は公共政策大学院の修士(MPP)をやっているのだが、元々はドイツで医学部を出ていて、医者の免許を持っているという変わり種である。年齢は私と同じ。彼も私も、テニスとスカッシュを少々やるので、この1年の間に何度か対戦したが、今のところ大体勝っている気がする。といっても私も大して上手いわけではなく、私が勝つ背景には、一般的に部活でかなり本格的に1つのスポーツをやるのが基本の日本のシステムを経験していると、色んなスポーツを軽くかじることが多いヨーロッパの人達と、自分がやっていたスポーツで対戦すると、レベルの差が生まれることが多い、という事情があるのだ。

彼との出会いは、2018年の7月、私がIQMRから帰ってきて、Transfer of Statusの面接に向けた準備をしつつ、毎日のように舟を漕いでいる(パンティング)時期であった。うちのカレッジでは、en-suiteという、シャワー・トイレ付きの部屋のある建物は、夏休み中はサマースクールでやってくる(騒がしい)キッズたちに貸し出され、住人は別の部屋に移らなければいけない決まりになっている。なので、私はカレッジの別の家の部屋に移動したわけだが、その家で隣人だったのが、マイクである。夏休みになって、ヨーロッパ人たちはほとんどが帰国してしまったオックスフォードは、気候は素晴らしいものの少し寂しく、暇を持て余していた時期であったから、隣の部屋の住人がフレンドリーな人物であったことは、そうした不満を解消する良い材料になった。

当時彼は、秋からのMPPプログラムの開始前に、夏の間だけ、オックスフォードの病院で医師としての病院実習を行っており、そのために早めにオックスフォード入りしていたのであった。授業も何もない私とは違って、彼は実習で忙しそうで、毎日会うわけではなかったが、暇を見つけて2人でコートを借りてテニスをしたり、誕生日を祝ってもらったり、自分の友達に紹介したり、また彼の実習の友達(色んな国から来ていた)が集まる場に誘ってもらって顔を出したりしていた。彼に紹介してもらった友達の1人が、コロンビアの日系人だったのだが、彼女は今年から日本に留学していて、つい最近東京で久しぶりの再会を果たした。これもマイクがいなければ生まれなかった縁であり、人と人の繋がりというのはつくづく面白いものだなと思う。

8・9月は私が帰国していたために会わなかったが、9月末からの新年度においては、なんと再び同じ建物の同じ階に住むことになるという偶然があった。それで喜んでいたのであるが、残念ながら部屋が気に入らなかったらしく、1ヶ月ほどして別の建物に移っていった。彼は基本的に真面目でいいやつなのだが、唯一の困った点が、部屋への不満が多いということである。夏の間の部屋についても、色々と問題点を挙げていたのだが、新年度になってからはさらにこれに拍車がかかり(もっとも、その部屋はカレッジのメインの建物に近く、騒音は確かに大きかった)、顔を合わせる毎に、(半ば嬉しそうに)部屋への文句を言うのが彼の通常運転であった。部屋を移ると決めた時の彼の行動力には目を見張るものがあり、同じタイプの部屋に片っ端から張り紙をしていって、部屋の交換相手を募集し、動き出してから1・2週間ほどで移動先を見つけたのである。それでしばらくは新しい部屋に満足感を示していたのだが、案の定数週間すると新しい部屋への不満を漏らし始め、最近Skypeしたときには、いつの間にか別のカレッジにアルバイトのポジションを見つけ、その特典としてそのカレッジに部屋を得ていた。恐るべき男である。

全体としてかなりきちんとした人間で、やるといったことはきちんとやるし、待ち合わせにも遅れない。私の方がよっぽどいい加減な人間である気がする。そうした彼の人柄は非常に信頼すべきもので、私は夏に帰国する時に彼の部屋に自分の荷物を置いてもらったり、部屋探しの時に代わりに内見をしてもらったり、急にカレッジの部屋を引き払わなければいけなくなった時に引越し作業をしてもらったりと、この1年間何度となく彼にお世話になった。何かお礼のちょっとしたものを渡したりはしているものの、実質的にはほとんどお返しできていないところが心苦しいのだが、No problem, happy to help! と爽やかに言って、全く恩に着せる様子がないのが、彼の人物の素晴らしさを物語っている。

既に述べたように、前回紹介したドミニクとは相当に違うタイプの人である。どちらも大好きな友達なのだが、彼ら自身の性格の違いもあるし、彼らの前での私自身のあり方というのも、かなり異なるような気がしている。ドミニクとの間ではよくふざけていて、遊び友達という側面が強いのだが、マイクの場合は、もちろん冗談も入るが、基本的に真剣なやり取りが多い。ある人を好きになれるかというのを決定づける要素の1つとして、その人といる時の自分を好きになれるかという問題があると思うのだが、この両者は、どちらも違っていながら、それでいてどちらも良いという感じで、一緒にいる時の自分のキャラクターも含めて、快い関係を築けている気がする。ただ、この2人同士は、見知ってはいるが、特に仲良くはないようである。AさんとBさん、BさんとCさんが仲が良くても、AさんとCさんが気が合うとは限らないのが、人間関係の面白いところである。

今回はこんなところで。

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雨が降らなかったために枯れてしまった芝のコートでテニスをした。