紅茶の味噌煮込み

東京駆け出し教員日記

中間審査に合格/ジョブマーケット近づく

9月になった。8月中旬に日本を出てこちらに戻ってきたのだが、イギリスというか欧州はもうだいぶ気温も下がってきて、最高気温は20℃前後になっている。朝晩は長袖シャツにカーディガンやセーターを羽織ってちょうどいい、といった気候だ。ヨーロッパの夏は日本よりも儚い。

今回の記事は前回とは打って変わって、真面目な話である。Twitterでブログの記事をシェアすると、よくRTやLikeされるのは、研究関連のものなのだが(研究関係のフォロワーが多いから当然か)、このブログ右下の「注目記事」という欄に出てくる記事は、ほとんどが研究と無縁の「どうでもいい話」カテゴリの記事なのが面白い。

博論の中間審査

このブログを書いている9月2日は、博士課程のプロセスにおいて重要な一日だった。オックスフォードの博士課程では、Transfer of Status、Confirmation of Status、Vivaという3つの関門があり、Transferは博士論文の計画の審査、Confirmationは3章分のドラフトの審査、そしてVivaは博論全体の審査である。私は、Transferを1年目の終わり(2018年7月)にクリアして、以降資料収集や、3年目に入ってからは博論執筆を始めていたわけだが、今年の6月にConfirmation審査の申請を行った。イントロ+理論+実証部分の一部の合計3章、40000ワードあまりの論文を提出したわけである。その審査が、ざっと3ヶ月後(夏休み+コロナで審査が遅れた)の今日、行われた。

審査して下さったのは、Transferと同じく、Andrew Hurrell先生とLouise Fawcett先生。前者はオックスフォードのIRのボス的な存在だが、とても気さくで優しく、入学時から色々と気にかけて下さり、話すたびに柔らかい気分になる先生。後者とは審査以外では今まで関わりが少なかったが、中東の国際関係の大家で、このコロナ時代に学部長を務めていて極めて多忙であるにもかかわらず、再び審査を引き受けて下さった。

TransferにせよConfirmationにせよ、指導教員のチェックを経て大丈夫だと判断されたものが落とされることはあまり多くないのだが(あることはある)、修正・再提出を要求されることもあるので、やはり数日前から少しずつ緊張していた。時代を反映して当然のごとくオンラインで行われた審査では、冒頭で合格したことが告げられたが、その後色々とクリティカルなコメントを頂いた。あまり内容に立ち入っても、論文自体を読んでいなければ分からないと思うので書かないが、ざっくりと言うと、説明変数としているうちの1つの定義や内容をもっと突き詰め、かつ広げないといけないのではないかという話と、扱っている事例自体だけではなく、より広い地域的な状況・時代背景や、植民地政策の歴史の全体の中での位置づけなどについてもっと説明が必要だ、という指摘がメインだった。要は、自分の扱っている問題をcontextualizeする、つまり地域と時代の状況の中に位置づけることがまだ足りていない、ということ。至極もっともな指摘で、実を言うとこれらの点はTransferの時にも言及されており、その後ある程度は対処したつもりだったのだが、まだ不十分だったようだ。反省するとともに、反映して論文の質を上げたいと思う。

とにもかくにも、私はConfirmationを突破したわけで、あとは博士論文の残りを仕上げ、Vivaに臨むだけになった。博論は7章構成で、3章をConfirmationに出したわけだが、提出後の3ヶ月で、さらに2章分のドラフトを書き上げたので、手つかずなのはあと1章とConclusionだけである。もっとも、ドラフトを書き上げたと言っても、審査で色々とコメントをされたように、まだまだ修正すべき点は残っているので、あと2章書いたら完成、というわけではない。とはいえ、10月から始まる博士課程4年目のいつ提出するかは分からないが、4年目の終わりまでに博士課程を終えられそうな見込みは、立ったと言っても良いだろう。学位留学をするのは初めてだったが、とりあえずここまで無事に来られて、本当に良かったなと思う。

ジョブマーケットに向けて

ただ、来年修了しようと思うと、考えなければいけないのが、博士課程後の進路である。イギリスを含むヨーロッパ(の政治学)では、博士課程が3-4年と短いこともあり、まずポスドクを数年経験してから、Lecturer*1やAssistant Professorなどの教員ポジションに応募するのが一般的だ*2。私も、まずポスドクをヨーロッパ(or 北米)で経験した後に、日本とアジア太平洋(シンガポール、オーストラリアなど)の教員ポジションに応募しようかな、などと思っていて、このプランは今も大きくは変わっていない(日本に5ヶ月も一時帰国していて里心がつき、日本に早めに戻るのもいいな、とは思ったが)。

しかしコロナの影響はアカデミアのジョブマーケットにも強く及んでいて、就職市場は今年(というか今後数年)は相当厳しくなることが予想されている。日本は今のところそれほど影響を受けていないようだが、欧米の大学は相次いで採用停止をしており、APSAのejobsやjobs.ac.ukなどのウェブサイトに掲示される公募の数が、今年は非常に少ないようだ。TwitterでAPSAに載るポジションの数を去年と比較した表を載せている人がいたが、なかなか衝撃的な減り具合であった。

ポスドクなど、短期のものは相対的にあまり減っていないと言われているが、それでも、例年はもう募集が出ているはずなのに出ていないもの(例:OxfordのPrize Postdoctoral Research Fellowshipが社会学しか出ていない)もあり、アラートをかけていても、めぼしいものがなかなか出てこない*3

 

こうした状況になると、あまり限定するようなことは言わずに、色々な選択肢を考慮に入れて、この先の数年間を乗り切れるポジションを得ることを目指さなければならないだろう。2021年卒業見込みのコーホートは、おそらく今世紀で一番不運だと思うが、もうそれは受け入れるしかないので、その中でベストな選択肢を模索しようと思う。ポスドク期間も含めて、今後数年間は「ジョブマーケットにいる」ことになりそうだが、とりあえずは、海外だと2021年秋からのポジション、日本だと主に2022年春からのポジションを探していくことになるだろう。今のところ私は色々な可能性に対してオープンな状態なので、国内外問わず、もし何かいいポジションがあれば、ぜひ教えて頂きたいと思う。

 

*1:北米でLecturerと言うと、テニュア・トラックから外れた教育中心の任期付きポスト、という意味合いが強いが、イギリスではAssistant Professorとほぼ同義である。

*2:もっとも、最初からこうしたポジションに応募することも可能であり、少数だが採用される人もいる

*3:例外として、中国の大学は相変わらずたくさん募集が出ている(もしかしたらそれでも減っているのかもしれないが)。あとはブルネイ大学が大量に採用募集をしていて一瞬応募したくなった。